温泉クンの旅日記

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雲見温泉 静岡・松崎

2006-06-11 | 温泉エッセイ
  < すっぴん >

「こちらの料理は、熱いうちにゼヒお召し上がりください」

 夕食のときに、料理を運んできた若女将に、
「ここの温泉は、イシベ温泉っていうんですか?」
 訊いちゃまずいかなと思ったが、恐る恐る訊いてしまった。秘湯といわれて
いるところはたいてい源泉をもっているのに、風呂場にかかっていた温泉の効能書
きに石部温泉と書いてあったからだ。雲見温泉ではなく。

 ここは、西伊豆にある雲見温泉の秘湯の宿「雲見園」である。ここはいつ電話し
ても「申し訳ございません。本日はあいにく満室でございます」と断られ続けた
宿で、今回平日だったのでようやくとれたのだった。秘湯といえば山の中の一軒宿
のイメージがある。だから、海水浴もできる海沿いの秘湯はかなり珍しいので一度
行ってみたかったのだ。晴れていて気象条件と運がよければ、富士山もくっきり
みえるらしい。



 もともと雲見温泉には宿泊施設の数は多いのだが、民宿の大きめなものとか、
旅館の小さなものばかりである。この雲見園は旅館の小さめのほうだった。それに
あとでわかったのだが、納得のいくサービスを宿泊客に提供するために、実際の
部屋数より少ない七部屋しか客ととらないという。
 アクセスは、東名の沼津インターから車で二時間半から三時間といったところ
だ。西伊豆の海沿いの道は、途中に土肥とか堂ヶ島とかいろいろ風光明媚なところ
があるので、それほどの遠さは感じさせない。

「はい、当館のお風呂は石部温泉から源泉を引いています」
 ニコニコ答える明るい口調に、すこし西のほうのアクセントが混じっていた。
石部はイシブと読むらしい。
「いままで十三リッター買っていたのですが、秘湯の宿ということで、ご満足して
いただけるように二十リッターに増やしたんですよ」



 二十リッターとは、ここの浴場と露天風呂の大きさを考えると毎秒でなく、たぶ
ん毎分ということであろう。パンフレットにはそこそこ広く写っているが、残念な
がらここは風呂がせまい。内風呂がひとり、露天がふたりぐらいはいればいっぱい
である。女性のほうは、内風呂が三人はいれるそうだ。今日は幸い平日で他にライ
ダー客がひとりしかいないから、独占できて満足できた。
「二十リッターに増やしてからは、ダイオキシンっていうんですか・・・最近問題
になってる、あれもゼロになりました」

(ええー! ダイオキシンなんかそんな物騒なものが温泉にはいっていたっけ!)
 はあーん。相槌を半分打ちながらも、眼球が裏返っていたかもしれない。アルコ
ールが回り始めた脳細胞をわたしはフル回転させた。旅館の若女将に自信を持って
ダイオキシンときっぱりいわれて、正解の記憶がコナゴナにぶっ飛んで四散しすぐ
再生できない。

「・・・それってダイオキシンでなくて、レジオネラ菌とか言うんではなかったで
しょうか?」
「ああ、それそれ、ヤダー、アタシったら。レジオネラ、レジオネラでした。ごめ
んなさい」
 思わず顔を見合わせ、噴きだしてしまった。

 海辺の宿の朝食はうまい。

 むろん、夕食も。温泉は山のほうがいいが、食い物については、海のほうが断然
よろしい。この宿も自前の船で毎日とれた魚介をだしてくれるので、最高であっ
た。
 朝十時ごろ、すっぴんの元気な若女将に見送られて出発、松崎の街にはいると
時間つぶしにプリンスホテルに寄った。松崎にあるうまい蕎麦屋の開店が十一時な
のだ。

 昨夜、女将は料理を運ぶごとに話し込んでしまった。生まれ育ちから現在までの
話を聞くことになってしまったのであった。タカハシさんという旦那と知り合った
のは、松崎プリンスだったのだ。

 海に面した眺めのいい一階の喫茶室で、珈琲を飲みながら若女将の話をあれこれ
思い出すと、思わず笑みが浮かんでしまう。話し好きの女将に、聞き上手の客。
旅館の裏側の面白い話ばかりだった。それでも嫁いでしばらくは、よそ者だから
地域では監視されているように感じられて、随分悲しい思いをしたこともあったら
しい。それも、いまはなくなったようである。若女将だけど、朝もそうだったが、
夕食のときもきっとスッピンだったのだろう。

 熱いうちに料理はたべられなかったけれど、いや、なかなか面白い宿だった。
でも、温泉好きなら平日に限ると付け加えておきたい。

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