< 学校温泉 ① >
廃校になった小学校とかの施設を利用して、温泉を引き、宿にしているところ
がある。
・・・ぜひ一度、行ってみたい。そう、かねがね思っていた。
山梨の山奥でもみかけたし、テレビでみたが宮城県や伊豆のほうにもあるらし
い。山梨も宮城も一月となれば雪の心配をしなければならないが、伊豆ならば
問題なくだいじょうぶだろう。この思い込みが実に甘かったことを後で思い知る
ことになるのだ。
伊豆も大きく東、南、中、奥、西と分かれるが、なんとなく西伊豆だったなあ
という記憶があった。
どこも出かけなかった先週の三連休に、インターネットを使って「西伊豆の
温泉」で検索してみた。リンクを開けていると、何件目かでヒットした。町営やま
びこ荘・・・お、写真も記憶どおり・・・みつけたぞ、これだ。運動場、二十五
メートルの温泉プール、食堂および研修室、収容人員百名とある。どちらかという
と合宿とか研修向けなのだろう。
全国のあちこちで泊まっているけど、箱根と伊豆は宿泊料金が目ん玉飛び出る
ほど高すぎる。
そこへいくと、みつけたやまびこ荘は一泊二食付きで四千五百円と嘘みたいに
安い。目ん玉が引っ込む。食事代の内訳も書いてあり、夕食は千二百円、朝食は
六百円と書いてある。これぐらいの値段の夕食なら、夜だけ小食なこのわたしにも
食べられそうだ。
さっそく携帯を取り出し電話番号を登録する。すぐに電話しないのはまだ休みを
取っていないからで、明日まず会社に休暇を申請してからかけるつもりだ。
翌日休暇を申請すると、昼休みにさっそくやまびこ荘に電話して、ひとりなんで
すが金曜日を予約したいというと、「他にお客様がいらっしゃるのでおとりできま
す。こちらへは、オートバイですか?」と決めつけるように訊かれてしまう。きっ
とライダー連中もよく泊まるのだろう。
バイクでなく車で行くといい、西伊豆のどのあたりか訊くと、堂ヶ島のすこし
先らしい。それさえ聞けばナビもあるからどうにかなる。堂ヶ島といえば旨い蕎麦
が食える松崎が近いではないか。
詳しい道順を長々と説明してくれ、何号線は現在閉鎖されていて通れませんか
ら、中伊豆から土肥に抜けてくるのが一番いいと勧めてくれたが、典型的なB型の
わたしは、ハイ、あ、ハイと生返事するだけでなんにも聞いちゃいない。何時から
はいれるかと訊き、三時との答えに、じゃあそばまで行ってわからなくなったら
電話しますから、と会話をプチンと締めくくった。
金曜日は、横浜の戸塚を十時過ぎに出発した。
別に朝の五時でも六時でも出発できたのだが、今回の旅は行きなれた伊豆なの
で、別に見るところもないし、行きたい立ち寄り湯も思いつかない。河津桜にも
まだちょっと早い。
東名使って中伊豆を通り、土肥に抜ければ早く到着できるが、高速料金がもった
いない。行きの楽しみは松崎にある「小邨」の笊蕎麦ぐらいだ。熱海から海岸線を
南下して下田から松崎に抜けよう。横浜から堂ヶ島まではざっと百五十から百六十
キロ見当で、一般道をトロトロ走って約五、六時間か。
となれば、三時のチェックインから逆算すると、出発が十時となったのだ。
横浜市内でガソリンを満タンにすると、ひたすら車をころがす。西湘バイパスを
走っているときに正面にくっきりと見えた富士山がきれいであった。
途中のコンビニで肉まんを一個食べただけで、休まずに松崎に直行した。
ほぼ予定通りの午後二時半に松崎の蕎麦屋「小邨(こむら)」に到着した。ひさ
しぶりに旨い蕎麦に舌鼓を打った。本当は田舎蕎麦の笊を食べたかったが、品切れ
で、しかたなく普通の笊蕎麦を食べたが、なんのなんのすこぶる結構な味であっ
た。
小邨の駐車場でナビにやまびこ荘の電話番号を入力して、目的地をセットした。
目的地までの距離は残りわずか九キロである。
堂ヶ島の町にはいる橋を渡りきって右折、水の流れを横目に、川沿いの道を延々
と遡っていく。
途中の、山間の川底に巨岩がごろごろ投げ出されていた景色は、山梨の昇仙峡に
ちょっと似ている。広かった道もやがてぐっと狭くなり、カーブの向こうから砂利
を満載したダンプが猛然と現われ、何度か慌てまくる。
採石場をすぎるとそのダンプの心配もなくなった。ひと気のない道をひとしきり
走ると、やがて忽然といった感じで集落が見えてきた。宿の案内板が見えたので、
その指示に従って狭い道にはいり急坂を登りつめると、宿の校庭にでた。校庭の端
に山が立ち上がっている。
右手にレトロな木造校舎があった。
(・・・これは、たしかに学校の宿だ)
< ②へ続く >
廃校になった小学校とかの施設を利用して、温泉を引き、宿にしているところ
がある。
・・・ぜひ一度、行ってみたい。そう、かねがね思っていた。
山梨の山奥でもみかけたし、テレビでみたが宮城県や伊豆のほうにもあるらし
い。山梨も宮城も一月となれば雪の心配をしなければならないが、伊豆ならば
問題なくだいじょうぶだろう。この思い込みが実に甘かったことを後で思い知る
ことになるのだ。
伊豆も大きく東、南、中、奥、西と分かれるが、なんとなく西伊豆だったなあ
という記憶があった。
どこも出かけなかった先週の三連休に、インターネットを使って「西伊豆の
温泉」で検索してみた。リンクを開けていると、何件目かでヒットした。町営やま
びこ荘・・・お、写真も記憶どおり・・・みつけたぞ、これだ。運動場、二十五
メートルの温泉プール、食堂および研修室、収容人員百名とある。どちらかという
と合宿とか研修向けなのだろう。
全国のあちこちで泊まっているけど、箱根と伊豆は宿泊料金が目ん玉飛び出る
ほど高すぎる。
そこへいくと、みつけたやまびこ荘は一泊二食付きで四千五百円と嘘みたいに
安い。目ん玉が引っ込む。食事代の内訳も書いてあり、夕食は千二百円、朝食は
六百円と書いてある。これぐらいの値段の夕食なら、夜だけ小食なこのわたしにも
食べられそうだ。
さっそく携帯を取り出し電話番号を登録する。すぐに電話しないのはまだ休みを
取っていないからで、明日まず会社に休暇を申請してからかけるつもりだ。
翌日休暇を申請すると、昼休みにさっそくやまびこ荘に電話して、ひとりなんで
すが金曜日を予約したいというと、「他にお客様がいらっしゃるのでおとりできま
す。こちらへは、オートバイですか?」と決めつけるように訊かれてしまう。きっ
とライダー連中もよく泊まるのだろう。
バイクでなく車で行くといい、西伊豆のどのあたりか訊くと、堂ヶ島のすこし
先らしい。それさえ聞けばナビもあるからどうにかなる。堂ヶ島といえば旨い蕎麦
が食える松崎が近いではないか。
詳しい道順を長々と説明してくれ、何号線は現在閉鎖されていて通れませんか
ら、中伊豆から土肥に抜けてくるのが一番いいと勧めてくれたが、典型的なB型の
わたしは、ハイ、あ、ハイと生返事するだけでなんにも聞いちゃいない。何時から
はいれるかと訊き、三時との答えに、じゃあそばまで行ってわからなくなったら
電話しますから、と会話をプチンと締めくくった。
金曜日は、横浜の戸塚を十時過ぎに出発した。
別に朝の五時でも六時でも出発できたのだが、今回の旅は行きなれた伊豆なの
で、別に見るところもないし、行きたい立ち寄り湯も思いつかない。河津桜にも
まだちょっと早い。
東名使って中伊豆を通り、土肥に抜ければ早く到着できるが、高速料金がもった
いない。行きの楽しみは松崎にある「小邨」の笊蕎麦ぐらいだ。熱海から海岸線を
南下して下田から松崎に抜けよう。横浜から堂ヶ島まではざっと百五十から百六十
キロ見当で、一般道をトロトロ走って約五、六時間か。
となれば、三時のチェックインから逆算すると、出発が十時となったのだ。
横浜市内でガソリンを満タンにすると、ひたすら車をころがす。西湘バイパスを
走っているときに正面にくっきりと見えた富士山がきれいであった。
途中のコンビニで肉まんを一個食べただけで、休まずに松崎に直行した。
ほぼ予定通りの午後二時半に松崎の蕎麦屋「小邨(こむら)」に到着した。ひさ
しぶりに旨い蕎麦に舌鼓を打った。本当は田舎蕎麦の笊を食べたかったが、品切れ
で、しかたなく普通の笊蕎麦を食べたが、なんのなんのすこぶる結構な味であっ
た。
小邨の駐車場でナビにやまびこ荘の電話番号を入力して、目的地をセットした。
目的地までの距離は残りわずか九キロである。
堂ヶ島の町にはいる橋を渡りきって右折、水の流れを横目に、川沿いの道を延々
と遡っていく。
途中の、山間の川底に巨岩がごろごろ投げ出されていた景色は、山梨の昇仙峡に
ちょっと似ている。広かった道もやがてぐっと狭くなり、カーブの向こうから砂利
を満載したダンプが猛然と現われ、何度か慌てまくる。
採石場をすぎるとそのダンプの心配もなくなった。ひと気のない道をひとしきり
走ると、やがて忽然といった感じで集落が見えてきた。宿の案内板が見えたので、
その指示に従って狭い道にはいり急坂を登りつめると、宿の校庭にでた。校庭の端
に山が立ち上がっている。
右手にレトロな木造校舎があった。
(・・・これは、たしかに学校の宿だ)
< ②へ続く >
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