<群馬・吾妻、枯葉舞う杜のリゾート(2)>
本館一階にあたる地面まで、枯葉舞う坂道を降りてくると、フロントロビーに入りコーヒーを飲んでひと休みする。さきほど、横目で無料のコーヒーマシーンをちゃっかりみつけておいたのだ。
レストラン側の中庭に出て、喫煙所を探しあて一服する。
中庭にも紅葉があり、たっぷりの秋を感じられる。建物が風をさえぎっているのだろう、びっしりと枯葉が敷き詰められている広場はいかにも晩秋の趣だ。
腕時計をちらりと確認して、部屋に一度戻ることにした。
手早く浴衣と羽織に着替え、二階の大浴場に降りていく。洒落た休み処を覗くが、灰皿が設置されていないのでどうやらわたしには要はないようだ。
広めの、十五人くらい入れそうな内湯だが温泉の香りはまったくしない。
たしかに更衣室にいるときから消毒臭が匂っていた。宿に着くやいつものように「いの一番」に浴場に走らなかったのは、この施設には温泉が湧出しないと知っていたためである。
とりあえず、いつものように掛け湯をして身体を温めることにする。
充分に温まったところで、露天風呂に向かう。
五人くらい入れるほどの広さか。ゆるゆると身体を沈めると、こちらの湯は薄いが温泉が匂ってすこしだけ頬がゆるむ。
ここがあの岩櫃か・・・湯の中で身体をほぐしながら感慨にひたる。
わたしはとくに城好きではない。ここを宿に決めたのは、車で十分ほどの岩櫃山にある城址を訪れたいわけではなく、たんに真田太平記に頻繁にでてくる岩櫃の地を、踏みしめ歩いて記憶に刻みたかったからである。
昌幸の次男である源二郎信繁(幸村)が、築城された上田城をみてたびたび感慨にふけるのだが、このとき山城として比べているのは砥石城というより上州の岩櫃城のような気がわたしにはするのだ。真田太平記のなかにこんな文章がある。
『東太郎山の裾を南へまわると、彼方に、上田城の櫓がのぞまれる。
これは、源二郎に、
(真田家の新しい城ができた)
という感慨を、いつも、よび起こさせる。
これまでのような、山城ではないだけに、近づくにつれて城の全貌がはっきりとのぞまれる。
いかにも、それが城らしいのである。
山城だと、石垣も櫓も、山肌や樹林のなかに埋もれてしまい、城というより、山そのものの感じがするのだ。』
この温泉だが、どうやら吾妻峡温泉からの運び湯らしい。
いかにも泉質が希薄で、酒を水で割った水割りというより、たっぷりの水に少量のモルトウィスキーならぬ源泉をたらしたような、劣化も感じる温泉だが独り占めのひとときを過ごせてそれなりに満足できた。
― 続く ―
→「群馬・吾妻、枯葉舞う杜のリゾート(1)」の記事はこちら
本館一階にあたる地面まで、枯葉舞う坂道を降りてくると、フロントロビーに入りコーヒーを飲んでひと休みする。さきほど、横目で無料のコーヒーマシーンをちゃっかりみつけておいたのだ。
レストラン側の中庭に出て、喫煙所を探しあて一服する。
中庭にも紅葉があり、たっぷりの秋を感じられる。建物が風をさえぎっているのだろう、びっしりと枯葉が敷き詰められている広場はいかにも晩秋の趣だ。
腕時計をちらりと確認して、部屋に一度戻ることにした。
手早く浴衣と羽織に着替え、二階の大浴場に降りていく。洒落た休み処を覗くが、灰皿が設置されていないのでどうやらわたしには要はないようだ。
広めの、十五人くらい入れそうな内湯だが温泉の香りはまったくしない。
たしかに更衣室にいるときから消毒臭が匂っていた。宿に着くやいつものように「いの一番」に浴場に走らなかったのは、この施設には温泉が湧出しないと知っていたためである。
とりあえず、いつものように掛け湯をして身体を温めることにする。
充分に温まったところで、露天風呂に向かう。
五人くらい入れるほどの広さか。ゆるゆると身体を沈めると、こちらの湯は薄いが温泉が匂ってすこしだけ頬がゆるむ。
ここがあの岩櫃か・・・湯の中で身体をほぐしながら感慨にひたる。
わたしはとくに城好きではない。ここを宿に決めたのは、車で十分ほどの岩櫃山にある城址を訪れたいわけではなく、たんに真田太平記に頻繁にでてくる岩櫃の地を、踏みしめ歩いて記憶に刻みたかったからである。
昌幸の次男である源二郎信繁(幸村)が、築城された上田城をみてたびたび感慨にふけるのだが、このとき山城として比べているのは砥石城というより上州の岩櫃城のような気がわたしにはするのだ。真田太平記のなかにこんな文章がある。
『東太郎山の裾を南へまわると、彼方に、上田城の櫓がのぞまれる。
これは、源二郎に、
(真田家の新しい城ができた)
という感慨を、いつも、よび起こさせる。
これまでのような、山城ではないだけに、近づくにつれて城の全貌がはっきりとのぞまれる。
いかにも、それが城らしいのである。
山城だと、石垣も櫓も、山肌や樹林のなかに埋もれてしまい、城というより、山そのものの感じがするのだ。』
この温泉だが、どうやら吾妻峡温泉からの運び湯らしい。
いかにも泉質が希薄で、酒を水で割った水割りというより、たっぷりの水に少量のモルトウィスキーならぬ源泉をたらしたような、劣化も感じる温泉だが独り占めのひとときを過ごせてそれなりに満足できた。
― 続く ―
→「群馬・吾妻、枯葉舞う杜のリゾート(1)」の記事はこちら
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