
補修を依頼して一年経ってようやく修理完了した平櫛田中作の「福聚大黒天尊像(その6 中)」が届きました。依頼先は京都の人形店、丁寧な仕事ですが時間がかかる・・・。

福聚大黒天尊像 平櫛田中作 昭和42年作 その6(中)
昭和42年(1967年) 96歳作 共箱二重箱
作品サイズ:高さ180*横幅150*台座最大径176

「福聚大黒天尊像 平櫛田中作」の作品は贋作も多いのですが、共箱のない真作もあります。数多くの作品と向き合うとなんとなく真贋は解ってくるようです。

今までのブログで説明したように上記の写真にような字句の書かれた共箱や厨子の箱のある作品は晩年に多く、とくに価値が高くなります。


今回の補修は彩色の損失などでしたが、見本の写真などから修復してもらいました。かなり苦労したようです。修理費は17万ほどかかりました。


これほどの費用をかけてまで修復するか否かは賛否があるでしょうが、所蔵した者の運の尽き? 責任というものでしょう。損得ではないように思います。
修理する前の状況は下記の写真の通りです。絵柄がところどころ剥がれていました。
*本作品に関するブログの記事は2021年6月11日に投稿されています。

おそらく平野富山の彩色か・・??? 共箱に賛があるので力を入れて作った出来の良いもの・・よって補修もその趣を尊重して修復しています。

色の感じが補修かどうか全くわからいくらいよくできています。

小槌の彩色も文様からは補修と解る方がいるかもしれませんが、この辺りはご愛敬・・。

木彫類の共箱は風呂敷にて保護して保管しています。入手・補修の記録も書面にて同封されますが、電子データと本ブログも記録として遺されます。

伝浦上玉堂の作品と合わせて窓飾り棚に飾っています。

さて平櫛田中の作品は当時でも今でも人気なので、非常に贋作や模作が多いようです。とくに数多く作られた大黒様や恵比寿様はそのパターン化された文様や造形によって真似された作品が多いのでしょう。

本日の作品はそのような状況下の作品で、大黒天と対で作られたりすることの多い恵比寿天尊像の紹介です。
恵比寿天尊像 平櫛田中作 昭和48年作
昭和48年(1973年) 102歳作 共箱(幅205*奥行205*奥行215)
作品サイズ:幅150*奥行140*高さ130 台座:幅165*奥行160*高さ30

当方の蒐集作品において大黒様は作品数では7作品ほどありますが、恵比寿様の作品は所蔵していませんでした。さらに最晩年の102歳という作にも興味があり、ちょっとマニアック的な数になっている平櫛田中の数物の作品(大黒天像)でしたが、今回はこの二つの理由により入手した次第です。

本作品を贋作と思われる方もおられるかもしれませんし、当方も正直なところ疑惑をもって入手しまていましたが、木の目の使い方など贋作には見られない平櫛田中らしい彫りが見られますので、真作と判断しています。
*いずれにしてもこの天尊像は「大黒天」でも「恵比寿天」でもはたまた「鏡獅子」でもよくできた?贋作がありますので要注意のようです。

真贋について一番解りやすいのは彫りの甘さですが、数物はパターン化されているので判別が難しい作品もあります。
*平櫛田中については年齢による彫りの勢いに差があるかもしれません。

真贋ではさらに彩色の絵の具や丁寧さが一番解りやすいでしょう。彩色は力作などは平野富山らが丁寧に施していますが、このような作品は数多く作られ、幾つか作られた作品には彩色がたしかに多少雑なものもあります。なお本作品は木の目を生かすために顔を中心に肌の部分に彩色していないようです。このような作例は過去にもいくつかあります。

この木の目、柾目を見込んで中心から割り振りしている彫りがこの作品の良さのようです。

贋作にはまったくお話にならないものも数多くありますが、このレベルの出来となると真贋の判断がむずかしくなるのは事実です。本当に確実なものを入手したいなら、作品数の少ない一品ものに近い力作を入手するしかないのでしょう。このような複数ある数物の作品群でもかなり高額の入手費用を必要としますが、鑑定書(所定鑑定人「平櫛弘子」のよるもの)が付属している作品を入手することをお勧めします。

この作品群は中、小と大きさがある程度決まっていますので、共箱は常に中身を入れ替えている可能性をも疑ってかかる必要があります。本物の共箱があるから中に納まってる作品が真作とは限りません。

本作品は書体や一部の印章から本物の共箱と判断してもよいのかもしれません。


この彫銘は判読不能(「中翁人 拝刀」?)であり、この彫銘を根拠に贋作と判断している方もおられますが、この彫銘は真作にもあるようです。

贋作は頭から否定してはいけません。どこがどう違うか覚えるには時として良き教材となりますし、二度と間違えないためのカンフル剤ともなります。そう考えられるかどうかが、蒐集のレベルや真贋の判断精度を上がれるかの分岐点のようです。どうせ贋作・・という考えの方には真作も不思議と寄り付かないのも事実のようです。
顔などに彩色せず木目を生かした作品には「なんでも鑑定団」に出品された下記のような作品があります。小さな作品ですが参考までに・・。
参考作品
なんでも鑑定団出品作 2021年11月9日放送
福助像 平櫛田中作
評価金額:100万円

鑑定団の評:間違いなく田中の作品。敷板の裏の字は間違いなく田中の字。「為 釋妙華菩提」と書かれているが、平櫛田中の妻・花代の戒名。書かれたのが昭和27年、花代さんの法事の時に配ったのではないか。ひょっとしたら複数作ったかもしれない。顔立ちは型にはまりながらも自分の個性を出している表現になっており、体もしっかりできている。
*評にあるようにこの作品も複数の作品が作られているようです
いずれにしても神様、仏様は真贋に関わらずに大切にすることをお勧めします。

ケース内に収めて飾る場合は過剰な乾燥を避けてください。

共箱は大切に・・。
本作品にはちょっとした下地の木の割れからの彩色からの剥離があります。修復すべきかどうかはこれから・・。お値段次第かな??
結局、「極彩恵比寿天尊像・大黒天尊像対(大)」の作品と共に修理を依頼しています。仕上がりはおそらく1年後・・。