本日紹介する作品は下記の写真にあるように、表面材を屋久杉で作った棚(残念ながら屋久杉のムクのものではない)に飾った平野敬吉(富山)作の「大黒天尊像」です。
二俵上福聚大黒天尊像 平野敬吉(富山)作 その7
像脇「敬吉拝刀」彫銘 像底「大黒天尊像 敬吉謹作」書銘 合箱
高さ262*幅205*奥行205
今までは「福聚大黒天尊像」として平櫛田中の作ったとされる作品は数点紹介してきましたが、意外にも平野富山が作った「福聚大黒天尊像」の紹介は本作品が初めてです。
御存じのように平櫛田中が制作した作品のほとんどの彩色を平野富山が担当していますが、特に有名なのは歌舞伎座に展示されている「鏡獅子」という大きな作品は彩色については平野富山がすべて行っています。
また平櫛田中が作った木彫については、自らも同じような作品も作っています。
それらの作品も含めて平野富山は同じモデルの作品を40~50体作っていますが、完璧なコンディションで残っているものは少ないとされます。
極彩色が施された作品はその保存管理が難しく、色落ちやシミの発生を抑えての保管状態が良いものは稀ということです。
長らくの展示や湿度の高い状態での保管は禁物なのですが、その作品の多くが適切でない管理状態で保管され、シミの発生などを招いています。彩色するには木彫の材質が吸水性の高いものとなるので、汚れやシミが付きやすいものなのでしょう。
本作品もその状態が鑑賞に堪え得るぎりぎりのものです。極彩色の作品でシミが発生した作品はその評価がかなり下がります。またその修復も難しいものとなります。
シミの発生した作品の修復は根気よくシミを落とすしかありません。加彩すると作品本体の良さを損なうことになりかねないので、毀れた部分以外は加彩は行わないほうがいいようです。
木彫の作品は湿度の高い状態でも、あまり乾燥し過ぎる状態もよくないとされます。エアコンのある状況での管理が必要となりますね。
本作品は袋の部分や俵の上部の白い部分の汚れやシミが気になります。修復するかどうか迷うところですね。
極彩色の作品を作れる人や修復できる人はもはや数人しかいないとか・・。昔は人形を飾ったり、揃えたりする習慣があったのですが、今はすべてが簡略化されています。
節句の人形などは不要の長物とばかり蔵の中に眠っていますが・・・・。
本作品は像の脇に「敬吉拝刀」と刻銘されています。円熟味のある彫りの書体から晩年の作と思われます。
平野富山は昭和17年第5回新文展に「女」で初入選しており、この頃から昭和50年代初めまで「敬吉」の号を用いています。その後は「富山」の号を用いており、よって本作品は昭和50年(1975年)初めまでとされ、円熟味から60歳頃の作と推定されます。
底の彫りこみ部分には「大黒天尊像 敬吉謹作」とあります。通常はここに彫り銘されるのでしょうが、珍しく墨書きです。深くて彫れなかったのかもしれません。よって脇に彫り銘を入れた・・・・????
いずれにしてもかなり良い出来の作品であり、細かい部分にもきちんと彩色されています。
当方で少しだけシミを落としてみましたが、素人では限界があります。
凹凸のある木彫にこのような彩色ができるのは神業・・・。
平櫛田中の作品において同じような作品で、当方が所蔵している作品は下記の作品です。
他の所蔵作品解説
二俵上福聚大黒天尊像 平櫛田中作 昭和27年作 その7(大)
昭和27年(1952年)80歳 共箱
作品サイズ:高さ310*幅*奥行
この作品において平野富山が彩色を施しいてる可能性があります。