■ 宇宙戦艦ヤマトがリメイクされた!? ■
私達40代男子にとって、「宇宙戦艦ヤマト」と「ガンダム」は
人格形成において何らかの影響を受けていない人は居ないのではないでしょうか。
そんな、日本アニメの金字塔とも言える「宇宙戦艦ヤマト」ですが、
そのリメイクを見たいかといわれれば私的にはビミョーです。
ところが、昨年劇場アニメでリメークされDVDで先行発売されていた・・。
そしてこの4月からTV放送が始まりました。
「見たいけど、見たくない」という複雑な思いで1話目を見てみました。
■ 現代のデザインでよみがえる松本メカ ■
先ず驚くのは、現代のデザインでリメークされた松本メカがカッコイイ事。
宇宙戦艦なのに、妙に現役の海上自衛隊の艦艇の様なディテイルにした事で、
結構、リアルに見えます。
艦橋のメーター類も、松本デザインの丸型から、
普通のメーターやモニターに修正されていて、現代風(未来風)になっています。
そして、戦闘シーンもリアリティーが増しています。
小型艦艇などは、「モーパイ」の弁天丸を上回る運動性能です。
艦首と艦尾から姿勢制御モーターを噴射して機敏に方向転換します。
こりゃ、艦首や船尾では音速を超えてるな・・・・。
皆、壁に激突して即死だ!!・・・・なんて無粋な突っ込みは大人はしてはいけません。
■ 現代デザインでよみがえる、あのキャラクター達 ■
そしてメカ同様に現代デザインでよみがえるのがお馴染みの乗組員達。
佐渡先生や、沖田さんなどは実に良い感じです。
■ こんなデスラー総統は見たくない ■
でも、キュラクター設定で見つけたこの方は・・・
・・違う・・・決定的に何かが違う。
妙に爽やかだ。
きっと腐女子の人気を狙っているに違いない。
そして、こちらの方も・・・
・・・オレの雪を返せ!!
こんなオタクをブヒブヒ言わせるデザインに誰がした!!
胸を「特モリ」にしやがったヤツは、出て来い!!
■ 誰を喜ばせたいのか ■
名作のリメイクは難しい。
オールドファンにアピールしようとすると、
原作の設定や世界観、そして雰囲気を残さなければいけません。
しかし、アニメのメインユーザーは若者ですから、
現代の若者にもアピールしなければ商業的には成り立ちません。
だから中途半端な作品になり勝ちです。
私も何もキャラクターを昔のデザインでなどと言う程頭は固ありません。
いえ、むしろ全然松本キャラを捨て去って欲しかった。
中途半端に今風になった松本キャラの周囲を、
全く今風の新キャラがチョロチョロと動き回っている絵だけは見たくありませんでした。
脚本もほぼ原作を踏襲したセリフが続きます。
ちょっと現代風に、リアルな言い回しをしているだけ・・・。
これは製作サイドがオールドファンにも、若者にもと欲張った結果です。
しかし最近の「キャラ立ちの良い」アニメを見慣れた若者は
絶対に「ヤマト」を支持する事は有り得ません。
「モーレツ宇宙海賊」の様なウルトラCでもない限り、
若者の感性は刺激されることは無いのです。
■ リメイクで大成功した「ウルトラマン」■
「平成ウルトラマン」や「平成仮面ライダー」が何故成功したのか
スタッフは全く理解していない様です。
しばらく放映が無かったウルトラマンが「ウルトラマン・ティガ」で再開した時、
スタッフは「ウルトラマン」という存在の再定義から始めます。
かつての「ウルトラマン」は、ボランティアで地球を守る、
「博愛の正義の宇宙人」でした。
M78星雲には、お父ちゃんや、お母ちゃんや、沢山の兄弟がいて、
家族全員で宇宙の平和を、命がけで守っていました。
でも、こんな設定、現代のガキにはバカにされるに決まっています。
「ティガの兄ちゃんに名前、タローだってよ!!だぁっせー・・・」で瞬殺です。
だから円谷プロダクションの若きクリエーター達は知恵を絞った。
「M78星雲からやってきた正義の宇宙人」という
ウルトラマンのアイデンティティーを完全に止めてしまったのです。
彼らは「古代の地球に存在した光の巨人」という設定を採用します。
遺跡にある「巨神像」が復活した。
それは迫り来る「闇」に対抗する為の目覚めだったという、
少し、スピリチャルな方向に設定を変更しました。
これは物語の後半で、もの凄い威力を発揮します。
「根源的闇の恐怖」に対抗する「光の戦士」という
「神と悪魔」に繋がる、物語の基本構造を構築して行くのです。
若きクイリエーター達が真剣に作った「ウルトラマン・ティガ」には
子供だけでなく、子供と一緒に番組を見るお父さん達が食いつきまいした。
小中千昭や川崎郷太といった個性的な脚本家や演出家の力も相まって、
「ウルトラマン・ティガ」は大成功を収めます。
俳優達も良い演技をしていました。
V6の長野君が、恋人に正体を明かせず悩むウルトラマンを好演。
その恋人役レナ隊員が初代ウルトラマン俳優「黒田進」の娘の「吉本多香美」。
彼女の役者としての勘所が素晴らしく、ドラマを引き立ていました。
(吉本多香美の最高傑作は、映画「皆月」でしょう。
北村一樹が演じるチンピラから離れられないソープ嬢を体当たりで熱演。
ちょっと過激な性描写の多い作品ですが、近年日本映画の名作の一本です)
しかし、平成ウルトラマンはその後のシリーズ化で
結局は魅力を失ってゆくのは、昭和のウルトラマンと同様でした。
■ オダギリ・ジョーの最高傑作は「仮面ライダー・クーガ」だ ■
ウルトラマンと同時期に、仮面ライダーも復活します。
「仮面ライダー・クーガー」の主演はなんと、
今をときめくオダギリ・ジョーでした。
「仮面ライダー」も復活にあたり過去の設定を全て捨て去ります。
「秘密結社の陰謀」など、子供にもバカにされるからです。
(本当の世界がそうだとしても・・)
そこで仮面ライダーも「古代から復活した戦士」という設定を採用します。
私としては、「秘密裏に開発したウィルスによる肉体変異」などの方が
石森正太郎の世界観には合う気がしたのですが、
そうなると、敵役をどうするのかという問題が発生してしまいます。
古代の戦士同士の闘いとする事で、善悪を明確にした方が子供には分かり易いのでしょう。
しかし、仮面ダイダークウガの「正義」は社会的には確立していません。
「クーガー」は「怪人」同様、謎の生命ですから、
警察は「クーガー」を「怪人」と同様に攻撃します。
これは、現代的で面白い設定です。
実績の無いヒーローは、その超人的パワー故に「脅威」だと社会は判断するのです。
ところが警察の中にも彼の理解者が生まれます。
(その刑事は、現在、「渡る世間は鬼ばかり」のファミリーになってしまいましたが)
新たな世界観が魅力的な「仮面ライダー・クーガー」ですが、
その最大の魅力は何と言ってもオダギリ・ジョーの初々しい演技です。
相手役は歌手の村田英雄の娘でしたが、(これガセネタでした・・・村田和美さんという女優さん)
この派手とは言えない堅実な女性と、
謎の生命体に憑依され、自我の喪失の恐怖と戦うナイーブな若者のドラマは、
お父さん達だけでなく、お母さん達の心を鷲掴みにしました。
私は現在の怪しいオダギリ・ジョーを見るつけ、
仮面ライダー時代の、柔らかな笑顔を懐かしく思い出します。
和製ジョニー・ディップに成り下がった現在の彼の100倍は素晴らしかった。
おっとこの人も仮面ライダーでした。
でも、警視庁が開発した「ライダー・スーツ」を装着して
本物のライダーをサポートする役。
弱いんだ、これが・・・、ちょっとライダーマンみないな役どころ。
でも、完全に主役を食ってました。
誠実で、熱血で、ちょっとオッチョコチョイな刑事役ははまり役でした。
味を占めた製作サイドは、その後のシリーズでイケメンの若手俳優をぞろぞろと出演させ
仮面ライダーは何故か子供番組から、若いお母さん向けの番組に変質します。
水島ヒロもライダーでした・・・。
そしてシリーズがマンネリ化した頃、
「史上最弱の仮面ライダー」として登場したのが「仮面ライダー電王」でした。
主役は今をときめく「佐藤健」。
そして、シリーズ構成は、戦隊ものから抜擢された「小林靖子」でした。
これも佐藤健の演技が抜群に光っていました。
異世界の存在が憑依して力を発揮するという設定だったので、
一人で5人の人格を演じ分けていましたが、
これがとてもデビューしたての俳優の演技とは思えず、
彼のその後の成功は、既にこの時点で確信されました。
なんだか若手俳優の「黒歴史」を暴く記事になってしまいましたが、
要は、リメークで成功する為には、1から作品を造りあげる熱意が必要です。
だから若手のクリエーターに任せた方が成功する可能性は高い。
平成ウルトラマンも平成ライダーも子供の頃にそれを見て育った世代が
自分達なりの世界観を再構築して成功しています。
これはティム・バートンにバットマンにも共通する傾向です。
■ 「宇宙戦艦ヤマト」は宇宙版「坂の上の雲」であるべきだった ■
「宇宙戦艦ヤマト」をリメークするに当たり、
プロダクションIGと、監督の「出淵裕」は松本零士を意識し過ぎました。
それはオリジナルを「松本作品」と解釈しているからです。
しかし「宇宙戦艦ヤマト」はプロデューサーである西崎義展の作品です。
晩年、覚せい剤や銃刀法違反などヤクザ顔負けの所業で名を馳せた西崎氏ですが、
アニメ製作の現場では、徹底的に作品を造りこむ事で知られていた様です。
虫プロでの彼のプロデュース作品が、あの偉大なる名作「海のトリトン」です。
(監督はガンダムの富野)
ロマンチストの松本零士は、「愛が地球を救う」というテーマ性を作品に持ち込みますが、
西崎氏には「第二次世界大戦の敗戦の象徴たる戦艦大和を復活させる」事こそが
大事だったのでは無いのかと私は勝手に思っています。
圧倒的な戦力を持つガミラス軍は、表面的にはナチスドイツとして描かれますが、
日本と大和が戦った相手はアメリカです。
西崎氏は宇宙戦艦ヤマトが単艦で敵艦隊を粉砕する姿を描きたかったのでしょう。
このメンタリティーは、「坂の上の雲」を愛して止まない
私の父たち(75歳以上)の世代に共通するものです。
戦後の平和教育と軍国教育の両方を受けたこの世代は、
「栄光の日本」を一度は信じ、そそ戦後を「悪の国家日本」と教え込まれます。
かつて羨望の目で見た戦艦大和は、軍国主義の象徴とされます。
西崎氏も同様に、かつて大和や武蔵にあこがれた少年だったのでしょう。
「坂之上の雲」が支持されるのは、明治維新までは後進国だった日本が
近代化を成し遂げ、大国ロシア(西洋)に打ち勝つまでの力を持った時代を描いているからです。
未だ、日本が敗戦を知らない栄光の時代は輝いて見えるのでしょう。
だから私は「宇宙戦艦ヤマト」をリーメークするなら
現代においては非常に薄っぺらに見える「愛が世界を救う」という松本テーマから離れて、
「宇宙戦艦ヤマト」に隠れて、アメリカを打ち破る夢を果たすドラマに変えた方が、
現代の中高年の心情にはピッタリと嵌るのではないかと思います。
森雪はあくまでも大和撫子として凜としているべきで、
決して胸を「特モリ」にして男性に媚を売るべきでは無かったのでは・・・・。
そういった意味において、オタク的感性の出淵裕を監督にするのでは無く、
アメリカへの対抗意識むき出しの高橋良輔を監督に据えて、
宇宙版の「沈黙の艦隊」を作るべきでした。
■ 出淵氏には、富野氏と、ダンバインをリメイクして欲しい ■
出淵氏の起用は、押井守氏との交友あたりが基点なのでしょうが、
彼には富野氏と組んで、「聖戦士ダンバイン」を是非リメイクして欲しい。
「聖戦士ダンバイン」とバイストンウエルの物語は、
何故かガンダムの監督、富野氏のライフワークの様になっていますが、
この世と海の間にある異世界、「バイストンウエル」に
現代人が妖精によって召還され、軍事技術を伝えた事で、
中世の世界構造が、一気に近代に変貌するという設定は現代的です。
アメリカ人技師、「ショット・ウェポン」が領主「ドレイク・ルフト」に請われるまま
中世の技術で現代の技術を再現するのは、興味深いものがあります。
ICまで造り出し、他国に漏洩した技術で他国の軍備も飛躍的に向上します。
これこそ現代の「技術移転」の姿であり、
そして、「技術」や「軍備」が旧来の世界の枠組みを大きく変える様は
これこそ、思弁小説たるSFの独壇場でしょう。
ダンバインで出淵氏が作り上げたロボットデザインは、
ガンダムのザクと並ぶ、日本のロボットアニメの名作です。
その有機的、生物的形態は、
時代と共に「有機ロボット」「生物ロボット」と解釈され
フィギアなどで独自の進化を遂げています。
ダンバインの放映当時、私は既にアニメを卒業した高校生でしたが、
夏休みに母の実家に帰省した折、年下の従兄弟たちが見るTVを盗み見ながら、
何という素晴らしいデザインだろうとワクワクした事を思い出します。
そして、人間の業の深さをドロドロと描く内容に、
従兄弟達は付いてゆけるのだろうかと、不思議に思ったりもしました。
断片的に見たこの作品「聖戦死ダインバイン」と「伝説巨神イデオン」は
結局、息子の成長と共にアニメが生活に戻って来た折に、
「エバンゲリオン」と同じ頃、レンタルビデオで全話を見る事になりました。
「宇宙戦艦ヤマト」は「愛と平和」という表層の文化でしたが
「海のトリトン」「ガンダム」「ダンバイン」「イデオン」という富野の諸作と
「エヴァンゲリオン」は、「正義」を否定する事で
「ヤマト」よりもより深い領域に到達した、日本アニメの真の名作です。
機会があれば、それぞれ取り上げてみたいと思っています。
本日は「オタク」な大人の思い出話でした。
ちなみに、仮面ライダーもウルトラマンも子供と一緒に見ていたと言い訳しておきます。
尤も、見逃した週は、保育園の父達の間でビデオの貸し借りが行われていました・・・。