■ 自転車操業の世界経済 ■
世界は借金漬けです。
それでも世界は崩壊せずにどうにか続いています。
何故でしょう?
答えは意外に簡単で、「借り換え」が出来ているからです。
借金には返済期限があります。
国債にも召還期限があります。
現在の世界は、ギリシャを例に取るまでも無く、
借金の支払い期日が来た時に、必要なお金を借り直して返済しています。
これを「自転車操業」と言います。
国債も償還期日がやって来ると、新たな国債を発行して召還資金を捻出します。
「ロールオーバー」などと格好の良い呼び方をしたりしますが、
要は、借金の返済を先延ばしにして、金利だけを払っている状態です。
■ 金利が低ければ「借り換え」は持続的 ■
この様な「自転車操業」が可能なのは「低金利」の恩恵です。
各国の中央銀行は量的緩和を実行していますから、
ほぼ金利はゼロに近い状態です。
アメリカにしても量的緩和(QE)の期待だけで株価が大きく変化しますが、
要は量的緩和による、「低利の資金供給」が無ければ世界の借金経済は崩壊するのです。
日本だけは、リーマンショック前から不景気で、
デリバティブ市場から取り残されていましたから痛みが少ないと言われますが、
オリンパス事件でも明らかな様に、バブルの精算が済んでいないので
新たな借金が積みあがらなかっただけの話です。
リーマンショック後、世界は民間の借金の多くを国に付け替えましたが、
日本ではバブル崩壊後の20年間で財政赤字を徐々にに膨らめています。
これは、民間お需要の低下を政府の借金で補った結果で、
民間の借金を政府部門が肩代わりした事と変わりありません。
GDP比200%の国債残高を誇る日本は、
世界のトップランナーと言っても過言では無いのです。
その日本が何故破綻しないかと言えば、「金利が低い」からです。
住宅ローンをお持ちの方の多くは、「低利で借り換え」をされています。
企業も同様に、「金利が低い」間は、どうにか生き延びていいます。
■ 金利は長期国債の金利に支配される ■
金利は国債金利に影響を受けます。
短期国債は一般的には受給関係で金利が決定しますが、
長期国債は景気の先行き予測によって、金利が決定します。
要は、景気の先行きが不透明であれば、長期国債の金利が上昇し始め、
つられて短期国債の金利も上昇し、
市中金利も上昇するという関係にあります。
リーマンショック後、日本やアメリカの長期国債金利は上昇していません。
それでは、景気の先行きが明るいかと言えば、誰もそんんあ期待は抱いていません。
では、何故、長期国債の金利は低く安定しているのでしょうか?
それは中央銀行が長期国債を大量に買い支えているからです。
アメリカではQE2で直接国債を買い支えました。
さらに、現在は短期国債を売って長期国債を買う「買い替え」というオペレーションをしています。
民間の金融機関が、日本やアメリカの国債の10年後や30年後を信用するはずがありません。
日本の多くの金融機関も同様に、長期国債を売却して短期国債メインに運用しています。
当然、長期国債は日銀が買っています。
日本で長期国債を長期保有しているのは生命保険や年金ではないでしょうか?
ですから、私は生命保険も年金も、何れは崩壊すると予想しています。
■ 「借金の借り換え」に限界はあるのか? ■
現在世界が挑戦しているのは「借金の借り換えに限界があるのか」という問題です。
通貨を無制限に刷る事が出来る方法は3つ考えられます。
1) 中央銀行が無制限に国債を買って、市場に資金を供給する
2) 召還期限の無い国債を発行する
3) 政府紙幣を発行する
上の3つの方法は、形態こそ違えど、「政府紙幣」と何ら変わりありません。
そもそも、兌換制度を廃止した時点で、「通貨の価値の裏付けは政府の信用」なのですから、
現在の中央銀行券は、「政府紙幣」と何ら変わりが無いのです。
「中央銀行の独立性」が重視されるのは、「政府紙幣」の発行に制限を設ける為なのです。
リフレ派の主張は、このリミットを緩和しろと主張しているに過ぎません。
一見、通貨の増刷が無限に可能であるなら、
「借金の借り換え」も永遠に可能な様な気がしてきます。
しかし、そこには国債金利の決定のメカニズムの視点が抜け落ちています。
国債金利は市場の受給バランスが決定します。
短期国債は市場で売買されますから、
国債の受給バランスが崩れれば、国債の価格が低下(金利が上昇)し始めます。
もし日銀が国債の直接買い入れを表明すれば、
中古国債の価格が暴落します。
この場合、国内の金融機関が破綻するので、
国債の市場は一時閉鎖され、日銀が国債を買い取る事になるでしょう。
その時に額面で買い取れば、一気に大量の円が放出され、
円安とインフレが発生します。
これがハイパーインフレと呼べるかどうかは分かりませんが、
とりあえず、インフレを見越して現物資産や不動産の価格が上昇するでしょう。
日銀はインフレを抑制するために金利を上げざるを得なくなり、
当然、企業の資金調達金利も上昇します。
低金利による借り換えで延命していた日本企業は一気に崩壊します。
■ ギリシャで起きている事 ■
ギリシャで起きた危機は、国債がこれ以上発行出来ない上限を超えた事に起因します。
国の返済能力を超える国債を発行したので、国債が償還できなくなったのです。
ギリシャがユーロを採用していなければ、
自国通貨ドラクマを増刷して、乗り切る事も出来ましたが、
ユーロがギリシャ中央銀行では発行出来ないのいで、
ギリシャは一気に行き詰まりました。
ギリシャが延命しているのはユーロ救済資金やIMFが
国債償還に必要な資金を提供し、
さらに既発の国債の価値を75%もカットした効果によるのもです。
これはスペインでもポルトガルでもイタリアでも置きうる事態です。
これらの国々の国債金利も市場で決定しますので、
ギリシャ危機がフューチャーされると、連動してPIGSの国債金利が上昇し、
それが国債発行コストを押し上げると同時に、
企業の調達金利を押し上げる事で、国内経済を減速させます。
12月にECBが3年の低利資金を銀行に供給して、
各国国債を買い支えさせたので、一旦は国債金利が低下していましたが、
これが時間稼ぎに過ぎない事は明確でしす。
市場は冷酷で、結局スペインの国債金利も再び上昇に転じています。
■ アメリカ国債は大丈夫なのか ■
ユーロ危機の影にひっそりと身を潜めるアメリカですが、
アメリカの経済もQEを原資とする「低利の借り換え」に支えられています。
QEの資金は債権金融市場(シャドーバンキング)を復活させ
企業が低利で社債を発行できる環境を作っています。
米株の動きは、今やQEの期待値指標と化しています。
FRBがQEを匂わせればダウが上昇し、
QEを否定すれば、ダウが下落するという分かり易い相場です。
昨年末からの世界的な緩和政策で、3月までのダウが好調を維持していました。
しかし、その裏で、アメリカ国債の金利が常用に転じていました。
3月中旬から、ガイトナーやバーナンキは景気の期待感に水を差すような発言を繰り返しています。
国債金利が上昇すると、ただでさえ弱いアメリカの実体経済が崩壊する恐れがあるからです。
さらに、現在成りを潜めている米国債危機が再び注目される事にもなります。
日本の国債と異なり、アメリカ国債はアメリカ意外が大量に保有しています。
コントロールを失えば、国債暴落、金利上昇が一気に進行します。
ですから、アメリカは国債価格に関して、日本以上にナーバスにならざるを得ません。
■ いつまでも続く訳が無い ■
結局、世界は「量的緩和」で命脈を繋いでおり、
景気回復による金利上昇でトドメを刺されるのですから、
いつまでもこの状態を続けるしかありません。
これは「世界の日本化」に他なりませんが、
こんな不自然な状況が何十年も続くはずがありません。
ギリシャ問題が、スペインやイタリアに本格的に飛び火した時点で、
世界が一時、目を背けていた危機が、一気に顕在化します。
2012年に入ってから、世界経済は一見平穏に見えますが、
次の危機の足音は、着実に迫っています。