人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

千葉科学大学誘致と銚子の財政問題・・・キーワードは若年人口

2017-09-05 07:56:00 | 時事/金融危機
 

■ すっかり報道が無くなった工事費水増し疑惑 ■

民進党の加計学園疑惑調査チームは図面の信憑性が保証出来ないとして、加計学園の工事問題問題から手を引くと決めました。

調査委員会が「ワインセラーなど大学に不要な設備が在る」と指摘した所、学園側が「現在はワインセラーなどは指摘を受けて中止ている」と発表。民進党は正確で無い図面を元に追及すると、ブーメランでダメージを食らうと判断し設計図による追及を止めると発表しています。(「高度な情報戦」という頭悪そうな理由を付けていますが・・・)

実は民進党の調査委員会は、持ち込まれた図面で安倍政権を本格的に追及する姿勢は始めから示していません。図面問題の本質は「加計学園が今治市と愛媛県に提示した工事金額よりも、図面から推測される金額が半額程度では無いか」という疑惑です。

そこをストレートに追及すれば、国民世論も真相追及を求めたのでしょうが、民進党はワインセラーなどという些末な問題にすり替えてしまった。さらには、ワインセラーが中止されたと聞くなり、これ幸いとばかりに、図面追及から撤退しました。

理由は簡単で、今治市や愛媛県で加計学園の獣医学部誘致に賛成した議員の中には民進党系の議員も少なからず居る訳で、見積もり根拠も提示されていない加計学園の事業費見積に対して、精査も審議もせずに全会一致で補助金申請を認めてしまっているのですから、これを追及されたら民主党は正にブーメランとなってしまいます。

さらに穿った見方をするならば、全国の大学誘致で同じ様な不正が頻繁に起きており、この問題を追及されたら、自民党のみならず、民進党の国会議員でもヤバイ人が沢山出て来る可能性が有る。

メジャーのメディアも図面問題の報道は無くなっています。(そもそも加計学園問題の報道が減っています。)建設費水増しの追及は、きっとされないままに終わるはずです。本当にヤバイ問題には、いつも蓋がされます。これが与野党とそしてマスコミも含めた「民主主義」という名のプロレスのルール。

■ 加計学園系列の千葉科学大学は銚子市から補助金の返納を求められた ■

2004年に千葉県銚子市に開学した加計学園系列の千葉科学大学は、今治市の先例として興味深い。

<加計学園側の当初要求>

①校舎建築費補助 93.5億円~120億円
②校地 15ヘクタールを寄付
③校地の基盤整備 15ヘクタールを市費で公共整備

<市との決着内容>

①校舎建築費補助 77億5千万円
②校地 寄付でなく長期無償貸付(9.8ヘクタール)
③校地の基盤整備 学園負担

(大学側が妥協した理由に大学側が開学を1年前倒しにした事が挙げられています。学園全体の資金繰りの問題なのか?)

補助金は当初92億円を要求していまいしたが、補助金の額が大きすぎるとして市議らが直談判して14億6千万円をディスカウントしています。


1) 銚子市はさらに8億円の返還を供給
2) 大学側は市民の為の施設(美術館)を建設して8億円の代わりにするとし、市と合意
3) 美術館は建設されていない

4) 大学は2014年に新設した看護学部棟が津波避難所となるのでこれを8億の代わりとする
5) 市側は上記説明では納得していない


実際の311の地震では、千葉商科大学の在る銚子市の外川地区は津波に襲われ、学園の敷地も津波の被害を少なからず受けています。しかし、外川は海に面して狭い平地が有るだけで、その後ろは高台になっています。仮に海際の平地に居たとしても、1分もあれば坂道を登って高台に避難出来る地形です。老人が階段を上って学校の屋上に避難するよりも、坂道を登って高台に避難する方が楽に安全が確保できます。加計学園の主張は、地元住民にとって全く説得力を持ちません。

そもそも2014年に建設された看護学部棟と、それ以前に建てられた別の大学建物に高さの違いは殆ど無く、看護学部棟が出来たから津波から逃げられるという主張は常識的に考えても全く説得力を持ちません。


千葉科学大学 看護学部棟 2017.08.27撮影

千葉科学大学 2014年以前に建設された棟 2017.08.27撮影


外川港のすぐ後の高台に通じる坂道が沢山有る  2017.08.27撮影

■ 経済効果の検証 ■


千葉科学大学を誘致した当時の野平匡邦元市長は、岡山県の副知事を務めた後に銚子市の市長となっています。野平元市長は、「県の補助金と国からの交付金が在るので銚子市の負担は全額では無い。」と市民に説明し、「大学誘致の経済効果は69億円、財政効果79億円ある」との試算を表明しました。

しかし、実際には県や国からの補助金は得られず、期待された経済・財政効果も3年前に市が試算したところ経済効果は約21億円、財政効果は約14億円にとどまることが判明ます。

市は大学への補助金の為に市債を発行し、元利合計の返済総額は84億円。毎年4億円ずつ返済しています。現在は44億円の支払いが残ります。

千葉科学大学を市の事業としてとらえた場合

1) 初期投資として77億円(借金)、元利返済総額84億円。
2) 毎年4億円の返済

3) 学生や職員の生活費や新入生の生活用品や車やバイクの購入で
   銚子市に毎年21億円の経済効果

4) 財政効果は14億円、他に税収増が2億円

長期的視点に立てば、大学誘致は市にとってプラスの様にも思えます。ここら辺が全国の自治体が補助金を提供してまで大学誘致に積極的になる理由でしょう。

■ 銚子市は財政が悪化していたのに借金をさらに増やした結果・・・ ■

問題は大学誘致当時も銚子市の財政はひっ迫しており、市債の発行残高が嵩んでいました。

実は千葉科学大学は銚子市がバブル期に進めてマリーナ・リゾート開発の敷地の一角に在ります。「名洗(なあらい)マリンリゾート計画」で銚子市は70億円を掛けてマリーナを整備しますが、バブルが崩壊して周辺地域を含めたリゾート開発は失敗に終わります。


名洗マリーナ(銚子市) 2017.08.27撮影

千葉科学大学の有る敷地は、元々リゾートマンションなどを建設する予定で埋め立てられたもので、計画の頓挫によって空き地になっていました。そこに大学の誘致の話が持ち上がり、野平元市長は県と国からお金を引っ張ってくると言ったので、市民も大学建設に前向きになった。

ところが、結局は県も国もお金を出さなかったので、市が77億円の市債を発行して補助金を提供した。

その結果、銚子市の借金は300億円にも上り、夕張市に次ぐ財政再建団体転落が確実視されています。

一般的な企業に当てはめるならば、こんな感じでしょうか?

1) 本業の業績が振るわず、若い社員が辞めて生産性も低下
2) 銀行からの借り入れが増える

3) 起死回生の策として、銀行から借り入れして新規事業に乗り出す決意をする
4) 共同出資者が途中で降りてしまい、全額の負担がのしかかる

5) 新規事業の業績は予測した程では無かった
6) 借り入れ金と利払い費負担で財務状態が極端に悪化
7) 近年中にも債務超過に陥り、破綻が確実になる

銚子市は加計学園誘致以前から、人口の現象や、若者の流出、漁業を中心にする産業の衰退、マリーナ開発の失敗によって財務状況が悪化していました。

市民病院を閉鎖するのど苦肉の策で財政の悪化を食い止めていましたが、千葉科学大学の誘致による補助金負担が財政破綻を確実なものとし、さらには破綻時期を早めてしまった。

要は、甘い利益見込みと、資金計画で事業が破たんする典型。これは加計学園が責めを追うものではありません。責められるべきは、この計画を看過してしまった市議会と市民、そして甘い事業計画を推進した当時の野平元市長にこそ最大の責任が有ります。

■ 加計学園が市に提出した150億円という建築費の正当性 ■

加計学園(千葉科学大学)は、補助金申請に当たり、銚子市に建築費を150億円として提出しています。建築図面や見積もりの仔細を確認した訳では無いので、この額が妥当かどうかの判断は出来ませんが、市議会でも建築費が高す過ぎるとの意見も出ています。しかし、補助金決定当時に大学側からは根拠として議会には簡単な資料しか提出されていなかった。

この状況は今治の獣医学部と良く似ています。

■ 土地転がしで利益を上げた浦安市の了徳寺大学 ■

私は大学誘致問題の本質は「土地利権」にあるのでは無いかと妄想しています。

1) 無償で大学建設用地を自治体から譲り受ける
2) 上物の一部も補助金を受ける
3) 取得した土地によって生じた抵当権を行使して金融機関から資金を融資してもらう
4) 将来的に若年人口の現象で大学経営状態が悪化したら、キャンバスを閉鎖して土地を売る
5) 金融機関も土地を抵当に押さえているので損は無い

全国で定員に満たない大学が増える中で、どうして大学や学科が増えるのか不思議ですが、加計学園のみならず、多くの私大では新規キャンパスや学科新設によって銀行から融資を引き出さないと経営が破たんするのでは無いか・・・要は自転車操業に近い学校法人が沢山有るのでは?

実は私の住む浦安市では昨年、大学と土地売却を巡るトラブルが起きています。浦安の海岸に近い場所に「了徳寺大学」という私学が在ります。土地は元々はUR都市機構が保有していましたが、その一部を大学に貸与していました。

昨年URは大学に敷地を売却しますが、大学側は予定していた拡張計画が中止されたとして、即日でその土地の一部を転売します。結果的に1日でURの売却額の1.7倍以上の値になり、ホテルが土地を取得して、現在建設が進んでいます。

浦安市はこの取引を不満を表明し、URに売却するに当たり、学校建設を前提とすべきと申し立てますが、契約上、この様な規定は付けられないとし、URは大学に条件を付けずに土地を売却しました。

東京に近い、新浦安で、安倍バブルで土地の値上がりがし易かったという事で、大学側の利益が拡大しましたが、これがもし、無償提供されてあ土地を転売していたら大学は丸儲けです。

2018年から大学に入学する生徒が減り始めますが、各地で下位の私立大学の経営が危機的状況に陥るでしょう。そして、キャンバス閉鎖や、それに伴う土地売却の問題が表面化するはずです。

「教育国債」や「高等教育の無償化」の議論が高まっていますが、はたしてその真意は何処にあるのか・・・。「教育」という耳障りの良い政策と、「大学教育無償化」というアメで国民を釣って、実はその裏には巨大な利権が隠されている。まあ、きっとこんな構図が有るのでしょう。



<追記>

「疑惑有り」的な陰謀論だけでは問題なので、大学を誘致した野平元市長のホームページを紹介しておきます。

//nohiramasakuni.com/archives/262

千葉科学大学誘致10年目の中間決算
(創立十周年記念文集に掲載された原稿) より一部引用


①  定住人口の増加と若年人口の補強

都市経営競争の勝負は,若者人口の獲得で決まるとは,霞が関の官界や全国市町村長の常識だった。市が経営リスクを負わない私立大学は都市経営上ほしい魅惑的な施設だ。歴代銚子市長の共通公約だったが,誰も実現できなかった。

②  煙と公害のない誘致工場

雇用効果を期待して一部議員が主張した工場誘致は,既に時代遅れだった。近年の茂原市や館山市の事例のように閉鎖時の影響と被害は破壊的・破滅的だ。

③大学は地域資源活用の起爆装置

特異な地域資源の活用こそが銚子市の活路だと私は考えた。大学があれば可能だ。

a成田空港
b銚子有料道路の無料化と活用
c銚子電鉄の存続
d銚子マリーナ地区遊休地の活用




キーポイントは「市が経営リスクを負わずに若年人口を獲得できる」という点ですが、大学が経営破綻した場合のリスクは無視されています。

これからの少子化の時代に、地方の下位の大学は学生を集める事が難しくなりますから、十分に経営破綻する可能性が有ります。

現に、千葉科学大学は1割程度の定員割れが続いており、2015年度の収支で千葉科学大学は約4億4千万円の赤字。同グループの倉敷芸術科学大学は約6億5千万円の赤字。これを岡山理科大学の黒字が埋めています。

現在黒字を計上している岡山理科大学とて、今後の学生数の減少の中で黒字を維持するのは難しいかも知れません。

仮に、加計学園の経営が破綻した場合、市が見込んでいた経済効果や財務効果が消えるだけでなく、大学周辺のアパートの経営も破綻します。いえ、既に今でも千葉科学大学周辺のアパートには空き室が増えているそうです。

10年後、20年後を見越した企業誘致はとても難しく、工場を誘致しても、海外移転などで工場が閉鎖されるケースも多く見られます。


「大学誘致で一時でも周辺の建築産業が潤ったり、若年人口が増える方が、何もしないで衰退を待つよりは良いでは無いか・・」、この考え方は、そのまま今の日本の国にも当てはまります。加計学園問題と地方の衰退の問題は、単純に「安倍友憎し」というレベルで語られるべきものでは無いのかも知れません。