『Just Because!』より
■ 今期アニメのダークホース 『Just Because!』 ■
今期アニメはダントツで『宝石の国』が素晴らしく、私的には2017アニメのベスト1は確定。
次を追うのが『アクションヒロイン・チアフルーツ』と『月がきれい』ですが、ここに来て第三コーナーから猛烈な追い上げを見せるのが『Just Because!』。
■ 「群像劇の妙手」現る ■
中学時代まで過ごした藤沢の高校に転校して来た泉 瑛太。高校三年生の三学期の転校という事もあり、クラスには編入せずに自習室登校を選択します。
学校には中学時代の野球部の親友の相馬 陽斗と、クラスメイトだった夏目 美緒が居ますが、連絡も途絶えていたので再開しても直ぐには相手が分からなかった。そんな3人ですが、夏目は相馬を、泉は夏目を中学時代から思い続けている絵に描いた様な三角関係。
肝心の相馬はブラスバンド部の地味な森川 葉月に何故かゾッコンで、告白しようと迷っています。ホームランを打ったら告白する・・・そう決めてバッターボックスに立ちますが、何故かピッチャーは再会したばかりの泉。
そんな二人をグランド脇からワクワクしながら見つめるのは写真部の二年生の小宮 恵那。彼女は「謎の転校生」に興味津々で、二人の対決に夢中でシャッターを切ります。
そして、二人の野球対決を校舎の上から見つめるのはブラバン部の森川。相馬が自分への告白を掛けてバッターボックスに立っているなどとは知らず、夏の予選を思い出してトランペットで応援歌を吹き始める。すると、バラバラに練習していた部員もそれに加わって、二人だけの野球対決を盛り上げます。
「謎の転校生」という写メを写真部の小宮から受け取った夏目は「え、そんなの聞いてない」と急いでグランドに目をやります。野球対決を終えた二人がマウンドで笑い合うのを見ながら「笑えないよ」と一言。相馬への煮え切らない思いを入試を控えた苛立ちで誤魔化します。
一話のストーリーを書いてしまいましたが・・・グランドの野球対決を見つめる夏目、森川、小宮を同じ時間で捉え、次々にカットを切り替えて行く演出はスリリングです。何気なく見つめる野球対決が、その後の彼らを強く結び付けて行く。
■ Line時代の群像劇 ■
5人の高校生の群像劇の『Just Because!』ですが、この作品の特筆すべきは「同時間性」。
群像劇の多くはAが〇〇していた時、BとCは▽▽をしていた・・・といった描き方をします。この同時間性は上に書いた冒頭の演出にも表れていますが『Just Because!』で面白いのはLineのグループ会話が、離れた友人達をリアルタイムで繋いでいる所。
『月がきれい』でもLineの会話が効果的に使われていましたが、あくまでも主人公二人の会話であって電話とあまり変わりません。
ところが『Just Because!』では友人5人のLine会話と、その他の二人だけのLine会話が使い分けられながら物語が進行します。そしてそのいずれの会話も「舌足らず」なのが面白い。誰も本音を語らない。或いは語れない。
こんな感じでLineで繋がる群像劇は、離れた場所の友人達を緩やかにリンクしながら進んでゆきます。二人で居る所に、他の人のLineが着信して状況がリアルタイムで変化する。
■ 6話で繰り替えされる野球対決 ■
1話の野球対決のシーンがあまりに見事だったので2話目以降が「間延び」して感じられますが、6話で再び野球対決となります。
今度は相馬は、告白を断られて関係がギクシャクしてしまった森川からのLineに返事を出すかどうかを掛けてバッターボックスに立ちます。
これを再び異なる場所で、夏目、森川、小宮が見つめる訳ですが、前回はただ眺めていただけの彼女達ですが、今度は彼らと強い関係性を持った状態で野球対決を見守ります。夏目も森川も何かを決意し、そして小宮は恋の予兆を感じ取ります。
1話と似た構造のシーンを6話で再演する事で、お互いの関係性の変化を際立たせて見せる脚本には、ただただ唖然とするばかりです。
■ 脚本は『さくら荘のペットな彼女』の原作者、鴨志田一 ■
見事なオリジナル脚本を書いているのはシリーズ構成も務める鴨志田一。『さくら荘のペットな彼女』のラノベ原作者ですが、この作品のアニメ化以来、岡田磨里と一緒に仕事をする事が多い様です。(サムゲタン事件で闇に葬られたアニメ版。これだけでもネトウヨは万死に値する)
群像劇としての岡田脚本の良い点を吸収しつつ、さらに構造的に複雑な脚本をものにしています。
監督は小林敦という方らしいですが、あまりネットに情報が有りません。空気感を大切にした丁寧な演出を心掛けている様ですが、お手本は京アニに『響けユーフォニアム』といった感じ。
背景は実写を画像処理しているらしく、ここら辺の技術の進歩には舌を巻くばかりですが、動画の相性は悪くありません。
特に6話ラストの河原での相馬と森川のシーンなどは、夕焼けから薄暮に移ろっていく様が実に美しい。『カラフル』の原恵一を思い出しました。
制作は小さな駆け出しの会社らしく、作画が残念な回も多いのですが・・・それを補て余りある内容の作品です。
■ 「やなぎなぎ」がいっぱい ■
OP主題歌は「やなぎなぎ」。
彼女の独特の歌詞センスと、透明な歌声、私の中では「ザ・アニソン」を象徴する存在です。
今回はやなぎなぎはEDの作詞作曲と音楽プロデュースも担当している様です。
彼女は音楽集団supercellの初代ボーカリストですが、私が彼女を知ったのは『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のOP「ユキトキ」から。
「アザレアを咲かそう・・・」という歌詞のインパクトがあまりに凄くて・・・それ以来ファンです。
作曲が石川智晶になると雰囲気がガラリと変わります。
『凪のあすから』のED「アクアテラリウム」は名曲です。
■ 「泉先輩をデートに誘っていいですか」「だめ・・・」 ■
今期ダークホース筆頭の『Just Beause!』ですが、物語は佳境に差し掛かっています。7話のラストで小宮が「泉先輩をデートに誘っていいですか」と夏目に直接切り出します。夏目の答えは「だめ・・・」
この展開で「だめ・・・」はアニメ史上に残るのでは無いか。従来ならば「別に、何で私に聞必要があるの?」と切り返すシーンです。
これまで煮え切らない夏目と泉の関係に視聴者はジリジリとモドカシイ思いをしていますから、この「だめ・・・」は爆弾級の破壊力を持ちます。脚本における「一言の力」ってスゴイ。
毎回、見事な「引き」で次週が待ち遠しい『Just Because!』、このままきっちりと終盤まで描き切れば今期アニメの上位にランクインしそうです。
・・・しかし、小宮さんが振られて泣く姿しか想像出来ない・・・。小宮ファンとしては複雑な心境です。