
■ 一つの世界という幻想 ■
皆さんはグローバリゼーションという言葉を
肯定的に捕らえるでしょうか?
それとも、否定的に捕らえるでしょうか?
例えば、金融危機後の世界で懸念されているのが、
保護主義の高まり。
関税や自国製品への税制的優遇などの非関税障壁を設ける事は、
第二次世界大戦の遠因ともなったと言われています。
しかし、金融危機後、市場原理主義にも陰りが見え始め、
市場原理主義が標榜するグローバリゼーションの弊害も顕著になっています。
「一つの世界」という美化された幻想の前で、
国力の優劣が無視されるグローバリゼーションは、
決して公平な競争とは言い難いものがあります。
■ 途上国の産業を破壊するIMF ■
途上国が経済危機に瀕すると、IMFから融資を受け
国家の再建に取り組む事になります。
IMFは再建の過程で、色々な注文を付けてきます。
例えば、その国の伝統的な産業や社会制度が不効率だから改善すべきである・・など。
結果、IMFによって再建された国家は、グローバリゼーションに組み込まれ、
先進国の市場として開放される事になります。
当然、競争に勝てない農業や国内産業は衰退し、
国家は貧困化して、先進国の支援を受ける立場に陥ります。
途上国がIMFに警戒感を抱いているのはこの為です。
■ 戦後破壊された日本の農業 ■
日本の食糧自給率が極端に低下した最大の理由は、
戦後GHQが行った農地改革と、学校給食により食の西洋化の推進です。
農地改革は一見すると、一部の富裕農家に集中していた農業資源を
多くの農民に還元する良策のようですが、
その結果、経営的には根本的に成り立たない農家を量産しました。
戦後、一時期、自民党は土地の再集約化の政策を模索しますが、
「沢山の農家」が「沢山の票」になる事で、
結局小規模零細農家は温存されてしまいます。
零細農家が兼業化で生活に基盤を安定化させたので、
土地の集約化は進まず、農業生産性は低い状態で安定してしまいます。
当然、米の生産コストは高止まりします。
そこに、さらに食の西洋化が襲い掛かります。
学校給食でパン食に慣らされた子供達には、
ご飯が嫌いな子供が多くなりました。
娘に聞くと、「皆、パンの方が好き」と言います。
食の西洋化は、米の需要を抑圧し、
価格維持の為に、減反政策が取られます。
そして、本来必要でない減反の為の補助金が支出されました。
■ 小麦は価格操作されえている ■
米に変わって需要が増大した小麦ですが、
国産と輸入では大きな価格差があります。
安価な輸入小麦が自由に輸入されると、国産小麦は淘汰されてしまいます。
そこで、小麦輸入は政府によって管理されており、
出荷時に、価格が上乗せされ、国産小麦並みの価格に調整されます。
私達は、あえて高い小麦を食べているわけです。
小麦の価格制度は、我々庶民の食卓を圧迫している様に思われます。
しかし、安価な輸入小麦が大量に出回れば、
国内の小麦生産だけでなく、米の生産も圧迫する事になります。
本来ならば、小麦に輸入関税を高めに掛けて調整すべき内容ですが、
保護主義と言われるので、流通段階で調整しています。
■ 自由競争が破壊する国内産業 ■
国が異なれば、当然気候風土も異なります。
穀類や農産物の生産効率も当然異なってきます。
グローバル化の名の元に、これらの差異を無視して、
農業生産物や工業生産物を公平な条件で売り買する事が求められています。
しかし、これでは、日本の様な生産性の低い農業は駆逐されてしまいます。
一方、日本の自動車をはじめ多くの工業生産物は、多くの国の産業を駆逐して来ました。
アメリカのビック3の衰退が、良い例です。
確かに、適地生産が一番効率的ではあります。
しかし、その為に貿易相手国の国内産業や雇用を壊しても良いのでしょうか?
日本とアメリカ、日本と中国の関係で考えれば、
痛み訳のように見えますが、
例えば、アメリカとアフリカ諸国の関係で考えると問題の本質が見えてきます。
農業生産性の低いアフリカに大量のアメリカの小麦やトウモロコシが輸入されれば、
アフリカの農業はひとたまりもありません。
実際、アメリカの穀物メジャーは、あまり気味のトウモロコシのはけ口として、
アフリカ諸国を利用しています。
アフリカの農業は衰退し、バイオエタノール・ブームに際しては、
トウモロコシの高騰がアフリカ諸国を苦しめました。
■ 関税は悪者か? ■
「自由貿易」や「関税の撤廃」は、あたかも正義の様に言われています。
消費者にしてみれば、安く物が買える事は良い事です。
しかし、安い輸入穀物の大量輸入で歪んだ食料受給を補う為、
大量の補助金が農家や農村につぎ込まれています。
この原資は、我々の税金です。
私達は安い食料を買って、高い税金を払っているのです。
本来、関税で調整していれば、
農家の競争力も、生産意欲も維持され、
さらに、関税が国庫を潤します。
■ 農家の所得保障はアヘン ■
民主党が政策として掲げる「農家の所得保障」はアヘンの様な政策です。
本来ならば、農家が企業努力で売り上げを確保しなければならないのに、
損失を政府が補填すれば、農家の自助努力が削がれてしまいます。
豊作による損失を補填し、凶作による損失を補填する。
一見、利に敵った政策の様ですが、
質の悪い作物を生産して売れ残っても国が所得を補填してくれます。
これは、アヘンの様な政策で、農家の生産活力を奪ってしまいます。
さらに、その原資は我々の税金です。
現代において零細農家はほぼ兼業化しています。
農業意外の現金収入が十分補償されています。
所得保障は、このような兼業農家には成されるべきではありません。
やる気のある、専業農家が、冷害や災害で困窮した時にこそ必要な政策です。
そもそも、農家は潜在的な資産家です。
所有する農地に、道路や商業施設が誘致されれば、
莫大な現金が転がりこんで来ます。
農地の転売が可能になれば、農地を売って離農する農家も多いはずです。
そのような、農家を税金で保護する必要はあまりありません。
■ 輸出企業の犠牲になった農業 ■
日本が自由貿易を推進しなければならない理由は、
日本の輸出企業が有利に輸出が出来るようになる為です。
「車は自由に輸出しておいて、農産物には関税を掛けます」とは言えません。
生産性の高い産業を優先した結果が、日本の現状と言えます。
日本の農業は、日本の輸出産業の犠牲になったと言えます。
その農業を税金で手厚く保護する事は、
私達自身が、日本の輸出産業を支えているという事も出来ます。
■ 自由貿易を謳歌出来なくなるアメリカ ■
今まで強いドルと、金融バブルによって、
アメリカは自由貿易の恩恵を謳歌してきました。
しかし、その結果、アメリカの製造業は衰退し、
農業以外の輸出競争力は削がれてしまいました。
今後、多くのアメリカ人が貧乏になり、
ドルの価値が相対的に弱くなる過程において、
アメリカ人はかつての様な、輸入による生活の従属を謳歌出来なくなります。
それどころか、国内産業の衰退は、雇用の喪失に直結します。
遅かれ、早かれ、アメリカで保護主義的な気運は高まるでしょう。
一時的には、日本の輸出産業に影響も出るでしょう。
しかし、真の調和の取れた世界を考えた場合、
適正な関税によってコントロールされた世界は、
国内的にも国際的にも、悪くない世界かもしれません。
行き過ぎた市場主義を補正するのは、社会主義的大きな国家では無く、
関税という旧来からの人の知恵かもしれません。