■ 担保はSDR ■
あまり大した事では無いのですが、
日本が今回IMFに貸し付けた600億ドルには担保が設定されています。
SDR(IMFの特別引出権)です。
リーマンショック直後からサルコジ大統領とBRICs諸国が、
ドルの崩壊に備えて、SDRを新たな基軸通貨として活用しようと画策していました。
最近はあまりニュースでもSDRについて聞きませんので、
その手の話は立ち消えになったのかとも思っていましたが、
IMFへの貸付の担保として利用されていたとは・・・・。
■ SDRって何? ■
「ところで、SDRって何?」という方が大半では無いでしょうか?
実は私も良く分かりません。
IMFのページから引用します。
http://www.imf.org/external/np/exr/facts/jpn/sdrj.htm
<引用開始>
SDRの役割
SDRは1969年に、ブレトン・ウッズの固定為替相場制を支えるために、IMFが創設しました。この制度に参加している国は、為替相場を維持する義務に従い、世界の為替市場で自国通貨を購入するために使用できる準備資産―政府または中央銀行が保有する金及び広く受け入れられている外貨― を必要としていました。しかし、二大準備資産の金と米ドルの国際的供給は、世界貿易の拡大及び当時起こりつつあった金融発達を支えるには、不十分であることが判明しました。このことから、国際社会はIMFの監督の下、新たな国際準備資産を創設することを決めたのです。
しかし、それからわずか数年後、ブレトン・ウッズ体制は崩壊し、主要通貨は変動為替相場制に移行しました。さらに、国際資本市場の成長により、信用力のある国の借り入れが促進されました。これらを背景に、SDRの必要性は減少しました。
SDRは通貨ではなく、またIMFに対する請求権でもありません。むしろ、SDRは、IMF加盟国の自由利用可能通貨に対する潜在的な請求権だといえます。SDRの保有者は、二通りの方法で保有するSDRと引き換えに、自由利用可能通貨を入手することができます。ひとつは、加盟国間での自主的な交換取極めを通した方法、もうひとつは、IMFに指定された強固な対外ポジションを有する加盟国が、弱い対外ポジションの国からSDRを購入するというやり方です。また、SDRは補完的準備資産としての役割に加え、IMF及び他の一部の国際機関の会計単位としての側面も有しています。
SDRの価値を決める通貨バスケット
SDRの価値は当初、純金0.888671 グラムに相当し、また当時の1米ドルに相当すると決められていました。しかし、1973年のブレトン・ウッズ体制の崩壊に伴い、SDRは通貨バスケットとして再定義されました。現在通貨バスケットは、ユーロ、日本円、 スターリング・ポンド、及び米ドルから構成されています。SDRの米ドルでの価値は、毎日IMFのウェブサイトに掲載されます。これは、毎日ロンドン市場の正午の為替相場を基に、上記の4通貨の特定の額の合計を米ドルに換算したものです。
SDR金利
SDR金利は、通常の(非譲許的な)IMF融資に伴い加盟国に課される利息や、保有するSDRに対し加盟国に支払われる利子、またSDR配分の際に課される金利、さらに各国のクォータ(出資割当額)出資額の一部に対し加盟国に払われる利子を計算する際の基礎となります。SDR金利は、SDRバスケットの構成通貨国・地域の、短期市場における代表的な短期借入金利の加重平均を基に毎週決定されます
IMF加盟国に対するSDR配分
IMF協定に基づき、IMFは加盟国に対し各国のクォータに比例したSDRを配分することができます。これによりIMF加盟国はコストのかからない資産を得ることができます。ただし、 加盟国が保有するSDRが配分を上回った場合、超過分に対し利子が支払われます。反対に、SDR保有額が配分を下回った場合は、不足分に対し金利を支払うことになります。
配分方法は次の二通りです。
SDRの一般配分。一般配分は、既存の準備資産を補完するという長期的且つグローバルなニーズの下に行なわれなければなりません。SDR配分に関する決定は、これまで3回行われています。第一回目は1970年から1972年の間に年賦形式で、総額93億SDRが配分されました。 第二回目の配分もやはり年賦形式で1979年から1981年にかけて行なわれ、総額121億SDRが配分されました。
第三回目の一般配分は2009年8月7日に承認され、同年8月28日に1,612億SDRが配分されました。この配分により、加盟国のSDR保有額及びSDR累積配分額が、各国のクォータ比で74.13%増加しました。
SDRの特別配分。1997年9月、IMFの総務会は、IMF協定の第4次改正を行ないSDRの一回限りの特別配分を実施するとした案を承認しました。この配分の趣旨は、現在のIMFの加盟国の5分の1以上にあたる1981年以降にIMFに加盟した国が、SDR配分を一度も受けていないという状況を是正し、全てのIMFの加盟国が、公平にSDR制度に参加できるようにするというものでした。
第4次改正案は、改正に必要だった、少なくとも総議決権の85%にあたるIMF加盟国の5分の3(112カ国)の承認を得て、2009年8月10日に全加盟国を対象に発効となりました。2009年8月5日米国が同改正を承認する133カ国に加わり、2009年9月9日に特別配分が行われました。第4次改正案で示されたように共通のベンチマークを用いて行われたこの特別配分により、加盟国のSDR累積配分額が215億SDR増加しました。
SDRの売買
IMFに対する責務を遂行するため加盟国がSDRを購入する必要性がたびたび生じます。また準備金の構成を調整するために、IMF加盟国がSDRの売却を希望する場合もあるかもしれません。IMFは加盟国とSDRの規定保有機関との間の仲介者として、SDRが自由利用可能通貨と交換されることを確保します。20年以上に渡り、SDR市場は自主的な交換取極めの下で機能しています。この取極めの下、多くの加盟国とSDRの1規定保有機関が、各々の取極めで定められた限度内でSDRの売買を自主的に行なってきました。2009年のSDR配分の後、引き続きSDRの自主的交換の市場の流動性が確保されるよう、自主的取極めの数と規模が拡大されました。
自主的な交換取極めが十分に機能を発揮しない場合、IMFは指定制度を起動することができます。このメカニズムの下では、IMFに指定された十分に強固な対外ポジションを有する加盟国が、弱い対外ポジションを有する加盟国から、一定の額を限度に自由利用可能通貨でSDRを購入することになっています。この取極めは、流動性及びSDRの準備資産という性質を保証するバックネットとして機能します。
<引用終わり>
はっきり言って全然分かりません。
1) ドルと金の代替の準備資産として発足した
2) 実際には変動相場への移行で、あまり利用されていない
3) ドル、ユーロ、円、スターリング・ポンドで構成させる通過バスケットを基本とする
4) 通貨バスケットはバスケット内の通貨為替変動の影響を相殺できる。
ざっと、こんな制度なのですが、通貨とのレートも発表されているので、
通貨の一種と考える事も出起ます。
IMFがSDRを勝手に発効する訳には行かないので、
バスケットの指定されて通貨を準備通貨として保有する必要がありそうです。
■ BRICSの通貨はバスケットに含まれていない ■
古い制度なので、新興国通貨がバスケットに含まれていません。
これに対して、リーマンショック後、
新興国が自国通貨をバスケットに含める事で
SDRを機軸通貨として運用出来ないか模索しました。
リーマンショック直後には「ドル崩壊」の可能性も囁かれていたので、
SDRの話も現実味があったのですが、
その後、ドルが比較的安定しているので、SDR導入の気運は下火になりました。
■ BRICSが独自の通貨機構を模索している ■
現在世界にはIMFと世界銀行という通貨の安定を担う組織が存在しますが、
いずれも先進国の意向が強く反映した組織で、新興国の評価はかんばしくありません。
そこで「BRICS開発銀行」を設立する動きが顕在化してきています。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201204/Wlof.htm
上の記事はアメリカの外交問題評議会CFRの発行するフォーリン・アフェアーズの記事です。
CFRは、一介のシンクタンクに過ぎませんが、
アメリカの外交問題を支配してきた組織です。
キッシンジャーやブレジンスキーやヒラリーを始め、
民主党、共和党問わず、有力議員達がその構成員となっています。
CFRこそがアメリカの外交の方向性を決定する機関だと言っても良いでしょう。
その機関紙とも言えるフォーリンアフェアーズが、
「BRICS開発銀行」に言及しているのですから、
現実性の全く無い話では無い様です。
■ IMF、世界銀行、BRICS開発銀行の三つ巴? ■
BRICsを最初に提唱したのはゴールドマン・サックスです。
新興国の台頭によって世界が多極化すると予測しました。
BRICS諸国がIMFのSDRに参加する方向から、
BRICS開発銀行の様に独自の通貨管理体制を模索し始めた事は注目に値します。
アジアに通貨危機では韓国を始めアジア各国に容赦無い改革要求を突きつけたIMFですが、
今回のIMFの動きを見ても、IMFはどうもヨーロッパに甘い様です。
BRICs諸国にSDR参加を働きかけていたのがサルコジ大統領である事から、
ヨーロッパ諸国は、BRICs諸国の経済力を背景に
IMFを拡大安定させ、その後ろ盾でユーロを救済しようとしたのでは無いでしょうか?
ところが、BRICs諸国はその動きには乗らず、
独自の通貨安定制度設立の動き始め、
アメリカのCFRはどうやらその動きを後押ししている用に見える・・・。
■ 統一が遠のく世界 ■
陰謀論的には2012年、「世界政府樹立」などという噂がありましたが、
最近の世界の動きを見ていると、新たな対立ブロックが生まれている様に見えます。
先日の石原都知事の尖閣発言なども、
明らかに日中を分断するアメリカの意思が透けて見えます。
アメリカは中東の利権を失う一方で、
どうやらミャンマーやベトナムの利権確保に動いています。
中国が思い通りにならない状況で、
中国から、東南アジア諸国にシフトしている様に見えます。
TPPの枠組みに中国が入らなければ、
アメリカの中国離れが明確化していくでしょう。
現在のアメリカは中国に頼りすぎています。
生産も中国ならば、消費も中国頼み。
さらには米国債も中国が大量に保有しています。
これは、アメリカと中国という覇権国同士の関係としては、好ましくありません。
■ 3極化する世界 ■
IMF、世界銀行、BRICS開発銀行という流れが明確化すれば、
世界は3極化が進行していく可能性があります。
日本は明治以来の関係で、IMF陣営にドップリ嵌っている様に見えますが、
アジア開発銀行などは世界銀行の流れを汲んでいます。
そもそも日本の近代化はイギリスによる所が大きく、
第二次大戦後に、アメリカが日本を支配する様になります。
その意味で日本はヨーロッパとアメリカに二重に支配された国であり、
政治や経済など、あらゆる分野でその力が拮抗した国だとも言えます。
もし世界が3極化するとして、TPPを足がかりにする環太平洋経済圏に属する道を選ぶなら、
日本は、徐々にヨーロッパの影響を離れていくことになります。
中東に依存していたエネルギーも、
アメリカやオーストラリアの天然ガスにシフトしてゆき、
またしてもエネルギーの命脈をアメリカに握られる事になります。
世界は依然として混沌としていますが、
少しずつ新しい姿も見え初めています。
しかし、この様な大きな世界の枠組みの変更は、
通常では20年、30年と言う長い時間を要します。
現在の世界に残された時間はそれ程長くはないと私は思います。
世界的な経済崩壊を契機に、過去の負債を一気にチャラにして、
世界が再編に動くと私は考えています。
その為の下準備がリーマンショック後に調整されたのでは・・・・。
通貨管理体制の最近の変化には、今後も注目する必要がある様です。