冒頭のふたりの少女が並木道でかくれんぼをするシーンが美しい。ふたりの着る白と黒のワンピースが象徴的だ。さらには、消えた少女を探し、叫ぶもうひとりの少女の声がカラスの鳴き声になる不気味さ。映画全体を象徴する悲しいプロローグである。このシーンの後、すぐに本編に入る。ふたりの少女ではなく老女の日々を描く映画が始まる。
だが、ここからの展開は意外だった。僕は勝手にもっと穏やかで静かな映画なのだと思ってい . . . 本文を読む
こんな小説ありなのか、と思った。作者の目の付けどころに驚く。「狭いアパートの一室から、地上2cmの世界を踏破する冒険」とはよく言ったものだ。これは小さな世界の大きな冒険だ。ドキドキさせられる大冒険なのだ。
たった100ページほどの中編小説で、文藝賞を受賞した作品なのだが、この中途半端な長さが実は心地よく、不安。ここにあるのは短編の切れ味ではなく、長編の満足感でもない。中途半端な空虚感だ。最初は自 . . . 本文を読む
この映画史に残る名作をなんと初めて見た。たまたまBSで放送していたので、見たのだが、やはり凄い映画だった。昔の「名作」といわれる映画は、時に今見ると古くて、通用しないものも多々あるけど、これは今なお新鮮で、感動的な作品だ。時代を経ても色褪せることのない秀作だと思う。2時間10分と少し長いのに、まるでそんな長さを感じさせない。あっという間だった。1946年公開のフランク・キャプラの傑作。
冒頭から . . . 本文を読む
公開最終日、駆け込みで見てきた。平日の朝1回だけの上映になっていたのだが、劇場はとてもよく入っていて驚く。服飾関係の専門学校の生徒たちであろうか、若い女の子でいっぱいの劇場で見る。見てよかった。予想以上の秀作で、これを見逃す手はない。
退職間近のお針子と、彼女がたまたま出会った女の子。そんなふたりのお話だ。ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者エステル(ナタリー・バイ)は次のコレクショ . . . 本文を読む
壮大なドラマである。戦争の時代を含む100年に及ぶ大河ドラマだ。それって先日までやっていた朝ドラ『カムカムエブリデイ』と一緒じゃないか、とも思う。あれは3世代に及ぶお話だが、実はこれも同じなのだ。主人公はニコデモという一人の音楽家。彼のたどった100年以上に及ぶ人生に奇跡(軌跡)を描くのだが、一筋縄ではいかない。
2部作構成で、第1部はニコデモを主人公にしているのだが、彼が出会う正太郎という男の . . . 本文を読む
この本の全編を彩る鮮やかなカラーイラスト(大桃洋祐)の人物にはなぜか鼻はあるけど口がない。そんなささいなことがなぜか気になった。この本のタイトルは「おしゃべり」な部屋、なんだけど、と思いつつ、でも部屋には口はないよな、とも思う。
主人公のミコは依頼された部屋の片づけをする、という仕事をしている。そこでいろんな部屋と出会う。ここでは7つのエピソードが描かれていく。短編連作である。川村元気によるこの . . . 本文を読む