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映画・演劇のレビュー

コトリ会議『いい匂いの人がブラブラしてる』

2013-11-03 22:55:41 | 演劇
 ありえないようなことがある。その瞬間を目撃したい。コトリ会議の新作のチラシを見た瞬間、なんだ、これは、とたまげた。何かの間違いではないか、と目を疑う。で、ゆっくりと、もう一度見た。そして、ようやく、理解出来た。この人たちはバカだ。

 無謀なことに挑戦するのは、若さの特権だ。田中将大が6戦の完投から、引き続いて今日もKスタのマウンドに立った。勝ち試合のご祝儀ではない。もし、ここで負けたならお終いという場面だ。彼がマウンドに立つだけで、鳥肌が立った。絶対に負けるわけにはいかない。バカは承知で挑戦する。

 総力戦である。コトリ会議は、このありえない挑戦を乗り切ったはずだ。最後の10ステージ目は、もう終わっている。

 11月2日から3日にかけて10ステージをオールナイトでこなす。2日の13時の回を皮切りにして、3時間単位で10ステージ(深夜の22時からの3ステージは4時間毎だが、最後の19時の回まで上演する。マラソン企画である。体力の限界に挑んだ。せっかくだから、普段では見られない時間に僕も挑戦しようと思い、土曜の22時の回を選んだ。

 芝居自身は3話からなるオムニバス。上演時間は65分(途中5分の休憩挟む)。脚本はいつもの山本正典だけではなく、室谷和美、牛嶋千佳も手掛ける。文字通りの総力戦だ。しかも、今回、山本さんが2本に出演している。最近、自分たちの公演ではあまり舞台に立たなかっただけに、そこも今回の目玉だろう。演出に専念していた彼が第1話ではなんと主演もするのだ。

 だが、これはイベント企画ではない。本気の力作である。しかも、いつもの山本作品とは、一味違う作品になった。これが番外編だから、という雰囲気からではない。これはコトリ会議の進化形を感じさせる力作なのだ。3本ともそれぞれ、個性的なのに、コトリらしい作品になっている。「彼ら」らしさ、とは何なのか、と、ここまで書きながら、僕も改めて考えてしまう。この3本はまるで似ていない。大体山本作品である3話目からして従来の山本正典カラーを払拭している始末なのだ。なんだ、これは。

 1話目の室谷作品は一種のホラーなのだが、もちろん怖くはない。でも、その怖くなさが怖い。死んだ祖父が憑依する話なのだが、憑依された上の妹が、平気な顔で受け入れる。今、おじいちゃんが入っていたわ、と言う。兄もまた、それを自然に受け入れる。下の妹だけが、怖がるのだが、そんな3人のそれぞれの反応の差が面白い。葬儀会館の親族待機場所。隣りの部屋には、死んだおじいちゃんがいる。そんなところで、カレーを作る。じいちゃんが大好きだったから。非常識だと、下の妹が言う。だが、兄も姉も動じない。この作品の何がおもしろいか、と言うと、常識をほんの少し逸脱する瞬間の心地よさだろう。それを、認めるとか、認めないとか、そんなことは問題ではない。おじいちゃんのわがままを孫たちがちゃんと受け止める。そこには何の不自然もない。ただ、その事実が素晴らしい。

 2話目の牛嶋作品は、コトリ会議の看板役者である彼女のキャラクターがそのまま、台本、演出にまで滲みこんでいる。これは牛嶋さんその人のような作品なのだ。主人公のカコミちゃんを演じたピンク地底人2号が素晴らしい。彼女のエキセントリックな魅力は、この短編作品のカラーとなる。繰り返される日常の日々。だが、こんな日常はあるか? 普通じゃないことの普通がそこにある。

 そして、最後は山本作品である。戦争を扱う。ボランティアスタッフとして戦場にやって来た日本人(たぶん)青年たちが、この狂気の現場で、正気を保つ。でも、それはとても困難なことで、自分たちも何が何だかわからなくなっている。終戦の放送を聞き、更に混迷していくさまが描かれる。

 何が普通で何が異常なのか、なんて、よくわからない。ファンタジーの意匠を纏って今まで描いてきた世界が、今回、剥き出しのまま提示された気がする。ギャラリー公演という装置も影響したのだろうが、前作でカフェ公演に挑戦し、その流れを受けてこういう形へと進化したのだろう。コトリ会議の優しさは、ここにある恐怖と背中合わせだ。そういう意味でこれはやはりコトリ会議だ、としか言いようのない作品なのだ。

 10ステージという冗談のような狂気も「彼ら」らしい。3本の芝居の中で、ちゃんとカレーを作ってしまうのも、「彼ら」らしい。とても丁寧で律義なのだ。何事であろうとも、おざなりにはしない。とてもささやかだけど、凄い体験だった。

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