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映画・演劇のレビュー

『恐怖の報酬 オリジナル完全版』

2021-10-14 18:07:36 | 映画

ウイリアム・フリードキン監督の77年作品。大ヒットした『エクソシスト』の直後満を持して手掛けた作品だ。キャリアの頂点に立ち、全精力を投入した渾身の一作だった。なのに、ヒットしなかった。なぜ、こんなことになったのかは今では謎だ。埋もれていたこの映画は完全版として数年前に再公開された。

40年以上前の映画にこれほど感動させられるとは思いもしなかった。評判は聞いていたけど、これは評判以上の衝撃である。アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督によるあの有名なオリジナル版よりもさらレベルは高い傑作だった。

公開時は30分もカットされて不本意な形で上映された。これだけの大作を91分の映画にして上映する意図がどこにあったのか。確かに前半はわかりにくいけど、なんだかわからないけど緊張感のある描写が続き、あれはあれで悪くはない。というか、あの前哨戦があるから余計に緊張が高まったのだ。無駄なシーンは一切ない。それどころか説明がほとんどなく、これは一体なんなのか、と驚きながらもスクリーンから目が離せない。

でも、商業映画として考えると、バランスが悪く、前半は確かに長すぎたかもしれない。だからプロデューサー判断で当時は大幅にカットして上映したのだろう。でもそんなことはフリードキンにとっては不本意だし、はらわたが煮えくり返るほど悔しかったはずだ。

完全版は、4人のバックグラウンドを丁寧に見せたうえで、お話の本題に突入する。確かに、いつになったらニトロ運搬の話になるのかとやきもきさせられるけど、この狂気の映画はこうでなくてはならなかった。この4人による戦いを見せるためには、彼らの背景が必要だった。

それにしても映画を見ながらこんなに興奮したのは久しぶりのことだ。しかも、TVで見たにも関わらず、である。もしこれを劇場の大スクリーンで見ていたら、と思うと残念でならない。今に時代CGでどんな映像でも作れるから、ちょっとやそっとのことでは驚かないけど、この映画には驚かされる。これはCGではない、ということも大きいのだが、やはりフリードキンの演出力の賜物だろう。有名な橋のところも凄いけど、最初のニトロを積んだおんぼろトラックのタイヤが絶壁の狭い山道を進むアップを見た時から、最後まで興奮はマックスだ。もう子供じゃないのに、こんなにもドキドキハラハラさせられるなんて、驚きである。この映画の撮影がどれだけ困難を極めたか、でも、これを作りきることがどれだけフリードキンにとって意味のあるものだったのか、いろんな意味で圧倒される。これはコッポラの『地獄の黙示録』に匹敵する狂気の映画だ。


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