『ありえないほどうるさいオルゴール店』の続編だ。前作から舞台となる場所を南の島の離島へと移して、また、同じように7つのお話は展開する。静かな島にひっそりとたたずむオルゴール店。そこにやってくる様々な事情を抱える人たち。ここにたまたまやってきて、この穏やかな佇まいの店主とのやりとりや、もちろんオルゴールを通して、自分たちの今を見つめ直し、自分の今へと戻っていく。ファンタジーではないけど、こんな不思議な場所があればいいな、と思わされる。人の心の中に流れる音楽が聴こえる店主と心にいろんな想いを抱えるお客さんとのささやかなやりとりを介して、彼らが変わっていく。各短編はあくまでもここを訪れることになる人たちを主人公にして彼らの視点から描かれる。この場所と店主は脇役に徹する。
こういうパターンの小説はものすごく多い。この数日読んだ小説がたまたまだけど3冊ともこのタイプだった。まぁ、重い話は少し敬遠しようと思い、手にしたからそうなっただけなのだろうけど、そんな3冊のなかでもこれが一番好き。なんだか癒される。(もちろん原田ひ香『母親からの小包はなぜこんなにもダサいのか』も中澤日菜子『お願いおむらいす』もいい小説だったけど。)
心が弱くなっているとき、こういう小説はいい。実際の旅では、こういう出会いはなかなかないだろうし、こんなふうにはいかないだろうけど、小説なら大丈夫だ。気持ちのいい時間を提供してくれる。