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映画・演劇のレビュー

スクエア『芸人コンティニュー』

2016-09-12 06:23:25 | 演劇

 

「スクエア20周年プレミアム企画」と銘打たれたこの特別公演は、なんとスクエアの休団公演だった。20年間続けてきて、少し疲れたのかもしれない。しばらく休んで、充電するのだろう。周年記念の公演が、別の意味での特別なものになってしまったことに驚く。

 

芝居自体も、いつものスクエアほどは、弾けない。なんだか、少しテンションが低い気がしていた。それだけに、終演後の挨拶で上田さんから、「スクエアはしばらくお休みします」と、さらりと話された時、どきっ、とした。芝居を見ながらも、なんだか、嫌な予感がしたのだ。それが的中した気がした。

 

スクエアはウイングフィールドで公演された2作目から見ている。その時はあまり、何も思わなかったけど、その直後の公演『泊』(これも初演はウイングだった)を見たとき、すごい、と思った。早くも、自分たちのスタイルを作ったな、と感心した。

 

それ以降、そのスタイルが縛りになることもあったけど、自分たちの立ち位置をしっかり踏まえて、着実に前進した。途中、僕はしばらく見ない時期もあったけど、この5年ほど毎回見せてもらっている。実験的な公演も含めて、確実に完成された作品を提示できている。それだけに、その先が見えない不安もあった。そこに、今回の作品である。

 

いつものスクエアとはいささか肌合いが違う。停滞した芝居なのだ。それは内容の問題だし、(ストーリーも含む)、あまり気にしないでもいいかも、と思いながら見た。芸人を諦める男(北村守)の話である。コンビが突然「家業を継ぐから」と帰郷して、ひとりになった漫才師が、自殺を試みるところから始まる。(でも、それは自殺なんかじゃなくてただ、黄昏れていただけなのだが)

 

この冒頭のなんでもないように見えるエピソードが象徴的だ。オンボロアパートの2階の窓から外を見ている彼の姿を見た下の飲み屋のオヤジが、走っていく。自殺を食い止めるために。でも、あんなところから飛び降りても死なないのは誰が見てもわかる。彼の勘違いなのだが、このオヤジ(ゲストの上田泰三が演じる)は実におっちょこちょいで、ここに集う芸人たちも同じだ。バカだけど、優しい。

 

夢を諦めないなんて、口で言うのは簡単だけど、それは難しいことだ。どこで、けじめをつけるのかも。30代になり、40も近付き、それでも、芸人への夢を諦められない人たちの吹き溜まり。大阪の下町を舞台にして、売れない芸人たちの悲哀を描く。

 

今回の柴田さんの舞台美術が凄い。いつも凄いけど、今回のリアルさはなんだか異常だ。ここまであからさまにしなくてもいいのに、西成の一画をそのまま再現したような空間を提示する。微妙な角度に作られた商店街への入り口や、その前のフェンスの後ろの空き地。3階建てのボロアパート。電車の高架下の喫茶店や、飲み屋。あそこに行けば今でも確かにあるけど、そこはあと少しすれば、ちょっと懐かしい風景となるはずの場所。郷愁と現実が同居するような空間を作る。そこに、彼らが集う。

 

これはあまり元気の出る芝居ではない。でも、確かにそこには彼らの今がある。大事なことはその一点なのだ。ためらいながら、そこに留まる。そこには先は見えない。でも、ここは居心地がいい。別に逃げているわけではない。いや、今も逃げ出さないでここにいる。そのことを誇りに感じてもいい。でも、そんな威勢のいい話ではない。素直な想いを、そのまま芝居にした。この作品をもって、スクエアはしばらく活動を中止する。

 


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