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映画・演劇のレビュー

『HOMESTAY ホームステイ』

2022-02-18 20:02:02 | 映画

アマゾンプライムのオリジナル映画として撮られた作品。瀬田なつき監督の最新作だ。森絵都の『カラフル』のなんと4度目の映画化。アニメ映画になり、タイ映画にもなったこの小説が再び日本で実写映画化となる。今回も原作の『カラフル』ではなく前回のタイ映画と同じタイトルになっている。映画としてのタッチも小説より、前回のタイ映画のテイストと近い。

原作に忠実に作るのではなく、このお話の枠組みをどれだけうまく活用してオリジナルな映画に仕上げるのか、それがこの題材に求められる。短期間でこんなにも何度となく映画化されるのはこのお話の可能性ゆえであろう。

そこで今回の瀬田版『カラフル』である。今までで一番サラリとしたタッチの作品に仕上がった。主人公は高校生で、お話の展開は幾分重い。そりゃぁ、主人公が死んでしまい魂になったところからお話が始まるのだから、当然だ。しかも、生前の記憶はない。それどころか、魂になった自分は誰とも知れない他人の体の中に入っているのだ。さらにはこんな使命が与えられる。自分ではなく、この与えられた体の持ち主である彼が死んだ理由を100日間の間で探し出さなくてはならないのだ。これはそんな期間限定の『仮の「生」』を生きるお話である。

最初はおろおろして、目の前の事態への対応だけで精一杯だ。だがやがて、少し余裕が出てきて、この体の持ち主だった小林真という高校生の家庭、学校という彼のこれまでの生活を見つめることになる。そんなふうにして彼の日々を生きる。彼が抱えていた様々な問題と向き合うことで、彼を愛おしく思うようになる。やがて、約束の100日が来る。

瀬田監督はこの不思議なお話をある種のファンタジーとしてではなく、かなりリアルなタッチで綴っていく。同性愛者のあこがれの先輩や、彼に思いを寄せるけどそんな想いを認めたくはない幼なじみ、彼の夢を認めない自分本位の父親、心の弱い母親。彼は自分の周囲の人たちを知ることで、映画の後半、彼の自殺の原因が明確になっていくと同時に、もう一度生きたいという想いも強くなっていく。そこからラストへとつながる。謎解きはここでは別に大事ではない。大事なことは彼が命を取り留めたことだ。周囲の(どちらかというと勝手な)人たちに、それでも助けられて、勝手に死んだ自分を救済する。自殺なんかしなくても人はやがて死ぬ。生きていることはちょっとした人生のホームステイでしかない。短い人生をどう生きるかが大事なのだ、と。映画はそんな当たり前の結論に行き着く。

クリエイティブプロデューサーとして数々の青春映画を手掛け、例えば『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』ではファンタジー色の強い恋愛を、近作の『思い、思われ、ふり、ふられ』でも高校生の恋愛を描いた三木孝浩監督が参加しているのにも心惹かれた。彼はどういうふうに瀬田なつき監督をフォローしたんだろうか。この題材は三木監督の得意のジャンルである。透明感溢れる瀬田カラーはちゃんとこの作品にも息づく。ふたりの個性が融合し、気持ちのいい映画に仕上がっている。


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