3人の女性たちの邂逅。育児ブログを通して出会う。亜希(35歳)は、妊娠により派遣先から雇止めに合い、幼い子供を抱え、求職中。優しい夫がいるけど、彼は仕事が忙しく育児の手助けができない。1歳児の保育園は簡単には見つからない。光さんのブログだけが今は心の支え。茗子(37歳)は、真面目な会社員。夫はいるが、子供はいない。流産してから夫と性交渉はない。彼はもう全く彼女に関心はない。後輩にマタハラで訴えられてから「若い女子」が苦手、というか避けている。職場で勝手な部下(若い女の子たちだ)のフォローにうんざりしている。光のブログに攻撃的なコメントを書いてうっ憤を晴らしている。そんなふたりの日々が描かれていく。読んでいてドキドキさせられる。なんでもない日常のスケッチなのに、きっと何かが壊れていく前兆だと思う。
そして、完璧な主婦、光さんが失踪した。ブログは更新されない。何が彼女にあったのか。ふたりの心はざわつく。光さんを探さなくてはならない。でも、あまりに漠然としすぎている。探すもなにも、彼女がどんな人で、どこに住んでいて、いや、どこに失踪したのかもわからない。なのに、ふたりは別々に旅立つ。(だって、このふたりは知り合いでも何でもない。ただ同じブログを読んでいる、というそれだけ。)
こんなところから、後半は始まる。やがて更新されたブロブから彼女が出雲大社に行っていたことだけがわかる。だから、出雲へと行く。ありえない。そんなことをしてもみつかるはずもないだろうに。それにもう出雲にはいないかもしれないし。というか、いないほうが公算は高い。ミステリ仕立てだったはずなのに、謎解きであるこの後半から、お話はありえない展開を見せる。ここでいうありえないは褒めているのではなく、貶している。というか、あきれている。こんな展開はない。小説だからといって、こんな偶然は都合がよすぎる。でも、飛鳥井千砂はそんなこと承知の上でそんな偶然の出会いを描く。3人が同じホテル内の店で出会うのだ。
この後半のあまりの展開にがっかりした。前半の不穏な空気が素晴らしく、それがどこに向かうのか、期待していただけに、このがっかりは大きい。だが、3人がお互いの胸の内を語り合い、新しい選択をする結末には納得する。これはこれでいい、とは思う。でも、小説としては破綻している。400ページに及ぶ長編なのに、これはないな、と思う。