まさかの展開だ。こんな映画だとはつゆ知らず、見始めた。前衛的な手法を駆使するというわけではない。でも、この大胆なモンタージュは僕たちを驚かせる。一体何が起きているのか。謎は深まるばかりだ。でも、始まって30分くらいで簡単に謎は解明する。早すぎるのではないか、と不安になる。まだ、だまされているのではないか、この先必ずさらなる何かがある、と勘繰る。
ある朝、彼女は夫とふたりの娘を残したまま家を出て行ってしまう。理由は明かされない。愛車に乗り、ひとり旅に出る。親友はそれがいい、と明るく送り出す。そこから始まる彼女の旅が描かれるロードムービーなのか、というと必ずしもそうではない。残された子供たち(まだ幼い姉弟)と夫の姿が並行して描かれる。だが、なんだかおかしい。そこに描かれるのは、現実なのか想像なのか、よくわからないまま話は進む。彼女が不在のまま子供たちが成長していく、さまざまなドラマが断片的に描かれていく。彼女はどこに行ったのか。その後は曖昧なまま。
ミステリ仕立てというわけではない。だが、謎を秘めたままお話は展開し、やがて謎解きはなされるが、そこからが痛ましい。ある意味、単純な仕掛けだ。でも、それが様々な想いを伝えることになる。彼女が失ったものの大きさ。あるはずだった未来への想い。どうしようもない想いは千路乱れ、妄想を生む。映画はネタバレしてからのほうが十分にミステリアスだ。
バラバラのピースがちゃんとかみ合うことでさらなる混迷が始まる。彼女の現在が明らかになる。事実を受け止めてどこに向かうべきなのか。冒頭の車でひとり旅に出るシーンが意味するものが明確になる。ただ、ここには答えがない。簡単な答えではなく、ここからどこに彼女が向かうのかを知りたい。この現実を受け止め、その先に向かい、それからの時間を生きていく。そんな彼女の旅が見たかった。