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映画・演劇のレビュー

『セイント・フランシス』

2022-09-08 09:48:49 | 映画

こんな小さな映画がちゃんと日本でも公開されるって素敵だな、と思う。30代の女の子が主人公だ。珍しい。しかも、彼女は仕事もなく、結婚もしていない。恋人のような男はいるけど、彼と結婚して安心したいわけではない。だいたい彼は出会ったばかりで年下。まだ20代後半で、結婚願望もない。まぁ、それはお互いさまだけど。そんな彼女が、夏の間のベビーシッターの仕事を請け負うことになる。これは6歳の少女と彼女の過ごすひと夏の物語。

ジャンルとしてはバディもの、なのだ。少女と彼女が心を通わせ、最高の夏を体験する。出会いと別れのよくある物語。だと思うと思いもしない展開にびっくりする。いや、特別な出来事なんかはない。ふたりのお話はある意味ありきたり。なんてことない日常のスケッチなのだ。主人公はあくまでも彼女で、6歳児は脇役。でも、タイトルにあるフランシスは少女のほうだ。ブリジット(彼女の名前)の視点から彼女のドラマが描かれる。

彼女は今、中絶した後の出血に苦しんでいる。でも、それを生々しく描きながら映画は自然なこととして見せる。苦しんでいるけど、映画はコメディタッチで描かれる。もちろんそれはふざけているわけではない。いろんなできごとも笑うしかないように見せていく。でも、自虐でもない。この映画のそんな真面目さが素敵だ。彼女の今を悲惨なこととして描くのではなく、この今という時間を大切なものとして描いた。だからこれはかけがえのない「ひと夏の冒険もの」なのだ。

この夏の終わりに、僕はこんな映画や小説ばかりをなぜかなんとなく(たまたま)見たり読んだりしている。しかもいずれも傑作揃い。つらい話なのに元気にさせられる。これもそんな1作だ。

フランシスがかわいい、というわけではない。(そんな映画ではないのだ)彼女もまた自然体なのだ。(たった6歳の子供なのに)レズビアンのカップルの両親のもとで暮らし、母親に新しい子供が生まれて、彼女が育児ノイローゼになっている、なんていう複雑な状況にある。でもけなげに明るく生きている、とかいうわけでもない。ふてくされているし、他人に簡単には心を開かない。(そんなの、あたりまえだろ)そこにブリジットがやってきたのだ。こんな訳アリのふたりが、距離を取りながら、反発したり、やがて共感を寄せ合ったりしながら過ごす夏。将来に対する不安を抱え、でも、まず今この夏を、この一日を過ごす。それはこのふたりだけではなく、フランシスの両親も含めて、だ。(生まれてきた赤ちゃんも)これはそんな小さなお話。


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