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映画・演劇のレビュー

川村元気『百花』

2022-08-06 17:26:30 | その他

川村元気がこんな小説を書いていたことは知らなかった。これまでの作品はすべて発売後すぐに読んでいるのに。2019年5月に出版されていた。かまり前ではないか。映画化され本人の劇場用長編初監督作品として9月9日に公開されるから本屋さんに文庫が大々的に並んでいるので知った。(この公開日って、『百花』にちなんでなのか?)

内容を見て驚く。認知症の母親の介護を扱う話。この本が出版された時期って僕が母親の介護問題でかなり参っていた時期と重なる。昨年母を亡くすまで、とくにこの7年間。昨年1月の入院まで。8年前、認知症の傾向があったのに、忙しさにかまけてちゃんと世話ができてなかったところに、深夜寝ぼけて倒れて骨折する。そこから初めて母の介護と認知症と本格的に向き合いだすことになる。それまでだってその傾向はあったのに、逃げていた。それは9度目のたぶん最後となるはずだった担任業務が始まる年だった。卒業までクラスの子供たちに説明して、介護と仕事を両立させた。何とか乗り切る。でも、甘かったかもしれない。そこから彼女の死までの4年。同時にそれは最後の転勤からの4年。いつ辞めることになるのか、と不安と戦いながらの日々。しかも、転勤2年目で、また調子に乗って最後の担任(ちょうど10回目に区切りとなる)と学年主任も引き受ける。そんな母がどんどん記憶を失くしていく日々と向き合っていた頃に、この本は出ていたようだ。

自分お話はこのくらいにして、この小説である。でも、あまりに重なる部分が多くて他人ごとではないと思った。読んでいて「わかるわぁ、」と思う事ばかり。若年性認知症を扱う映画は渡辺謙主演の『明日の記憶』もあるけど、今回はより身近だ。35歳の息子の方ではなく、認知症になる69歳の母親のほうに自分を重ねてしまう勢いだ。自分だってあと少しで認知症になる(かも)と思うと、怖い。年齢的にも母親のほうが近いし。映画では原田美枝子が演じる。10代前半で『大地の子守歌』でデビューした頃から、ずっと見ている。彼女の主演した『青春の殺人者』は僕のベスト映画だ。そんな彼女が認知症の老母を演じるのである。(実年齢より少し上だが)

終盤の息子が15歳の時に母親が出奔した(家出)部分が日記で語られ、そこに阪神淡路大震災が描かれる。1994年から95年。震災の後、被災地神戸から母は戻ってくる。この過去の記憶がお話のクライマックスに用意されるのだが、なんだか取ってつけたようで、少し興醒めだ。その後の花火大会に連れていき、そこで一瞬の目を離したときに迷子になるという展開も。

妻の出産と、母親の徘徊。仕事のトラブルも重なり、パニックになる。そこからどういうふうに抜け出すのか。地味だけど、そこが見たかった。終盤ドラマチックになるのは映画化を意識したのか。読み終えたとき、さすがにこれでは甘いな、と思った。でも、こんな題材の映画が作られるような時代になったのか、とも。来月の公開が楽しみだ。


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