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映画・演劇のレビュー

瀧羽麻子『ぱりぱり』

2015-03-06 21:36:25 | 映画
瀧羽麻子作品はこれで4作目になる。初期の2作の後、昨年の新作を2冊読んだ。どちらも、先の2冊とは少しタッチが変わっていて、そう言う意味でも興味深い。今日はまずはこちらから。

「ぱりぱり」は乾燥いりこを食べる音。彼女はそれが大好き。カルシウムの補強のため、母親が食べさせたのだが、異常にそれに執着する。というか、彼女はいろんなことに執着する。その度に周囲が見えなくなる。そのせいでどれだけみんなを困らせることになったか。6つのお話はいずれも彼女の周囲にいた人たちによる物語。カスル程度の人もいるけど、人生に関わる重大な影響を受けた人もいる。最初のお話は彼女の妹。彼女のせいで人生を狂わされた。最後は母親。同じく。

でも、みんな彼女のせいで、とても幸せになった。ふつうじゃない、と思う。こんな子がいたなら、困る。家族なら尚更だ。でも、家族だからほおってはいられない。おかしい。でも、彼女にはそれが自然なことなのだ。自分なりには、悩んでもいるのかも、しれない。でも、なんだかいつも自然体で、何も考えてない。ただ本能のまま生きている。

作者は一切説明はしない。彼女は病気なのか、と疑うこともない。脳に障害でもあるのか、なんて考えない。医者も大丈夫だ、という。ただ、ふつうとはちょっと違う回路を持っている。というか、ふつうじゃない。それだけ。でも、そんな彼女を理解できない人も多々ある。周囲には迷惑をかけまくるし。本人にはそんな気はないけど。動じない。時には気にしている気もする。でも、すぐに忘れて自分のことに集中する。

彼女は偶然から、17歳で詩人としてデビューした。もし、それがなかったなら、どうなっていたか。高校を中退して、ふらふらしていたかも。彼女に出来るような仕事があるとはとても思えない。だから、詩人として、一応、身を立てることが出来たのは(奇跡だが、)よかった。本は異例のベストセラーになった。でも、その後、2冊目はまるで売れなかったし、その後、書けない。

小説は時系列で並んでいない。時間があちらこちらに動き回る。でも、6つのお話を読み終えたとき、よかった、と思う。彼女は今もちゃんと生きているようだ。それだけでうれしい。みんなに迷惑をかけるけど、でも、それって多かれ少なかれみんな同じだ。人はひとりで生きていけるわけもない。それどころか、すみれ(書くの忘れていたけど、それが彼女の名前)とかかわれたことで、みんなこんなにも幸せだ。彼女の詩もきっとそんな詩なのだろう。ハートウォーミングである。心が豊かになる。きっと彼女のおかげだ。

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