彼女のお得意であるお仕事小説なのだが、今回はいつも以上にベタな作品。5話からなる連作なのだが、ありえないようなキャラクター設定をして、リアリティは追及しない。それどころかとてもわかりやすいパターンを踏襲する。
主人公の宝子の恋はもどかしい片想い。彼女の想いに鈍感な彼はまるで気づかない。宝子は28歳、恋愛経験なし。美人だし仕事もできるいい女。なのに、恋には臆病。彼のために奮闘するけど、まるでノーテンキな彼には届かない。周囲のみんなはそんな彼女の気持ちを知りながら、さりげなく応援もするけど、彼女は気づかない。お間抜けでかわいい女の話。彼を助けるためにいろんな事件と関わり、なぜか解決していく、という調子のいい話。読んでいて、それはないわ、と思いつつも、ついつい乗せられている。心地よく騙されましょうという気分にさせられる。
マンガのような小説なのだが、この軽やかさ(軽さではない)は、心地よい。おもちゃのプランナーという職業もまた、なんだかなぁ、と思わせる。いかにも、ではないか。子供のような女性。天然美少女。でも、もう十分の大人だけど。それどころか、婚期を逃す寸前。小説の途中で、30代に突入するし。浅草を舞台にして、刑事とか、スリ集団とか、殺人もあるし、もうよく作りました、というしかないようなお話なのだが、不思議と腹は立たない。楽しく乗せられて、ラストまで一気だ。最後にはちょっとほろ苦くて、でも、さわやかな気分。一服の清涼剤のような小説。