習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

梨木香歩『僕は、そして僕たちはどう生きるのか』

2011-11-02 21:17:55 | その他
 たった1日の出来事である。14歳の少年コペルくん(もちろん、あだな)が連休初日の朝、雑木林をうろついていて、そこでノボちゃん(彼の叔父さん、染織家)と出会い、ノボちゃんがヨモギが欲しいというので、友人であるユージン(しゃれではない)のところに行き、彼の家の庭(そこはなんと森になっている!)へ行く。そこで久しく疎遠になっていたユージンと、まるで昨日の続きのように接して、ともに1日を過ごす。それだけの話だ。

 2人は小学校の頃は大のなかよしだったのに、なぜ今はほとんどつき合いがなかったのか。どうしてそうなったのかもやがてわかる。だが、この小説は2人の和解がテーマではない。大体、表面的には気まずくなった訳ではないから、こんなふうにしていきなり訪ねることもできる。だが、そこにある理由がこの小説の大事な要素でもあることは事実だ。

 この一見狭くて小さな世界の物語は、このおおきなタイトルと連動して、僕たちが生きるこの世界の在り方すら指し示すことになる。近頃こんなにも壮大なドラマを小説で読んだことがなかった。極小が極大という無限を描くためには、人間の普遍にとどまらず、宇宙の真理すら表現しなくてはならない。もちろんこれはそんな小説なのである。

 庭でヨモギ摘みをするという小説がどうしてそんな大それたこととなるのかは、読めばわかる。命の問題、人の心のありよう、生と死、再生。そのすべてへのひとつの問いかけと答えがここにはある。だが、そんな大袈裟な小説ではない。これは2人の少年の友情の物語だ。これから彼らが、彼らを取り巻く世界とどう向きあっていくのかが描かれる。ほんの小さな身の回りのこと、そして、関わり合う人々との関係(当たり前だが、そこにはいい人も悪い人もいる)から、それは描かれていく。だから、構えることはない。もし「よかったらここにおいでよ。気に入ったら」うれしいな、というくらいの軽いスタンスで読み始めればいい。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 劇団タノシイ『夢のまた夢の夢』 | トップ | 藤谷治『わが異邦』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。