ミヒャエル・ハネケの新作はこのなんとも皮肉なタイトルに象徴されるような痛烈な作品。自殺したい大富豪(認知症で、もう十分生きた85歳)が同じように自殺志願の孫娘(人生に悲観している13歳)との交流を通して彼女の助けを借りて無事に死ぬまでのお話。金持ちで何不自由なく暮らしているはずの老人の憂鬱。母親を亡くして身寄りもなく、再婚した父親の引き取られた少女の孤独。ある家族のお話で、じいちゃんと孫娘のお話なのだが、ふたりを中心にした心温まる物語ではない。死にたいわけは何なのか。それを説明するのではない。だいたいじいちゃんは認知症のふりをしているだけ(かもしれない)。
群像劇になっている。最初は何の話なのかよくわからない。工事現場での事故のシーンから始まる。いや、その前にスマホの画面が提示される。誰の何がそこで示されたのかも、わからない。その後も提示される情報量があまりに少なく、一瞬で、そこを見逃すとそれまで。ぼんやり見てると何が何だか。わざと説明不足にしている。誰のエピソードなのかも、なかなかわからないまま映画はどんどん先に進んでいく。そのくせストーリーと直接関係しないシーンが延々と見せられたりもする。主人公のふたりが中心ではない。どちらかというと、じいちゃんの2人の子供たち(姉と弟)がお話の中心をなす。そして、その姉の息子。その弟の妻と生まれたばかりの赤ちゃん。引き取られる少女はこの弟の娘(前妻との子)である。
何がハッピーエンドなのか、を問いかけるわけではない。ただ、彼らを観察するように映画を見ている。突き放したような淡々とした描写。誰にも感情移入させない。それでいいのか、と思う。でも、それだけだし、そこから目が離せない。そんな映画。でも、そんな映画がとてつもなく凄い。