この映画を見たいと思う。きっとたいした映画ではないはずだ。感傷過多で、大甘で。でも、この小説をたまたま読んでしまった以上、見ないではいられない。それくらい、感情移入した。醒めながら、だけれど。きっと40年くらい前に見ていたなら号泣する。でも、今見たらしらけてしまう。たぶん。そんな気にさせられる小説だった。
榎本憲男監督のデビュー作である。10年前に作られた、ようだ。僕はこんな映画があったことなんて全然知らなかった。昨日たまたま帰りの電車で読む本が手元になかったから,学校の図書館で借りた。手頃な文庫本だし、と思い借りたのだけど、休憩時間にほんの少しと読み始めたのだが、そのまま一瞬で読み終えてしまった。決して面白かったわけではない。困ったなぁ、と思いながらもついつい止まらなくなったのだ。(もちろん、つまらなかったわけでもない。つまらないなら読まないし)
死者がやってきて、それが自分にだけ見えて、(じゃぁ、それって、ただの幻影だ!)今の自分を励ましてくれる。大学4年の頃、自主映画の撮影。ラストシーンを取り残して交通事故で死んでしまったヒロインを演じた映研の仲間だった女の子。密かに彼女に心ひかれていたけど、彼女は友人の「彼女」で好きだとは言えない。それにそんな自分の気持ちに当時は気付かなかった。自らの想いに封印していたのだろう。1年後、卒業して社会に出て、不本意な毎日を過ごしていた。そんなとき,死んだ彼女とそっくりの女性に出会う。双子の妹だという。彼女を代役に立てて幻になったあの映画のラストシーンを撮りたいと思う。
これは一種のファンタジーなのだが、描き込みが甘いから、これでは泣けない。映画版のほうなら、もしかしたら泣けたかも、とも思うけど、残念ながらこういうマイナーな映画はTSUTAYAにも置かれてないし、配信もされてないからなかなか見ることは出来ない。
小説の終盤。3年後、仕事を辞めて旅に出ることにする。どこに行くのか、決めてはいないし、旅に出るかどうかも、未確定。そんななか、この小説はラストシーンで、再び彼女がやってくる。今度は死者としてではなく。始めて逢う双子の妹との再会シーンだ。とても切ない。大林さんの傑作『時をかける少女』のラストを彷彿させる。もう一度あの未完成の映画のラストシーンを撮ることを決意する。それが彼の旅だ。自分の気持ちにけじめをつけることで、本当の人生を生きる。
このとてもセンチメンタルで、ひとりよがりな小説(と映画)を書きたかった(作りたかった)榎本さんの気持ちがよくわかる(気がする)。僕と彼とは同い年だ。僕も昔、8ミリで映画を撮っていた。高校時代映研にいた。そして、いつか映画監督になって、自分で劇映画を撮りたいと夢見ていたこともある。小説を書いて、それを自分の手で映画化できたなら最高だ、と。この小説の主人公と同じ20代の前半の頃まで、そんなことを考えていた。でも、僕は努力をしなかった。就職して、映画は諦めた。そして、40年近くの歳月が経った。榎本さんは夢を実現してこの映画を撮った。今から10年前の話だ。そんなことを今知り、なんだか胸が熱くなった。