たった86分の映画だ。これだけのスケールの映画なのにこの上映時間。でも、この悪夢は半端じゃない。まさかの展開でいったいこれはどこに行きつくのか、想像もつかない怒濤の展開を見せる。冒頭の結婚パーティ。上流階級の贅沢な式の様子が延々と続く。『ディアハンター』ほどではないけど、結構長い。だが、徐々にそこに不穏な空気が流れ始める。7年前にやめた使用人が娘の手術のために大金を借して欲しいとやってくる。母親は断るが(いくらかのお金を融通するけど到底足りない)今式を挙げるところの娘がなんとかしてあげたいと腐心する。お金を用意し、式を抜け出し、彼女のもとに行く。まさかの展開でしょ。だが、街は暴動の気配が濃厚でいろんなところで、不穏な動きがある。さて、ここからです。
結婚式の会場である邸宅に不審者が乱入してきて、阿鼻叫喚のパニックになる。なんとここまでがプロローグだ。30分くらいか。もちろんそこからが怒濤の展開。貧富の差が拡大し、庶民の怒りに火が付き暴動が起こる。
そんなバカなというようなお話になる。何が起きているのか。この先どうなるのか、書かないけど、ここに描かれることは僕たちが生きているこの世界に明日からでも起こりえることだ。政府の転覆を図るクーデターなんて自分の住む世界ではありえない、とは言わさない。この映画の舞台のメキシコでなら十分ありえる、とかそんな他人事のお話ではない。ここは日本ではないし、と言うわけにもいくまい。ウクライナだってコロナだって、同じ。それはないだろということが起きているのだ。
容赦なく主人公たちが殺されていく。政府と暴動の主であるテロ組織が結託していたり、何が何だかわからない状況が起こりうる。今ここで起きていることの冷静な分析や事実の確証は不可能。暗澹たる気分にさせられる。救いはない。ここに描かれる86分の地獄絵図は明日の僕たちのこの世界なのかもしれない。映画は終盤で少しパワーダウンするけど、リアルな地獄がここには確かに描かれている。