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映画・演劇のレビュー

『繕い裁つ人』

2015-02-17 22:43:07 | 映画
三島有紀子監督が神戸を舞台にしてこんなにも素敵な作品を作ってくれた。北海道の自然を舞台にした先の2作品も好きだったけど、あまりにメルヘンすぎて、少し鼻につくという人もあったはず。でも、今回は同じメルヘンでも、舞台が神戸で、お話もファンタジーではない。日常を舞台にしたお話だ。でも、そこは三島作品。とても、きれいで、夢のような世界がそこには描かれる。神戸の街並みを舞台にしたある種のファンタジーなのだ。そう思って見たほうがいい。

ある洋裁店のお話。そこは職人気質で頑固な女性(中谷美紀)がたったひとりでやっている。一生着れる特別な服を作ること。自分一人のために作られる。いくつになってもずっと大切に着続けることが出来る世界にひとつしかない1着。ただのオーダーメイドではない。生涯の服。彼女は先代の意志を受け継ぎ、この店を守る。彼女の仕事に惚れ込んだ男(三浦貴大)が彼女のブランドを立ち上げるためにここにやってくる。でも、彼女は固辞する。ただの街の洋裁屋であることを大切にする。この街のここの服を大切にしてくれる人たちのためだけの仕事をする。不特定多数のお客さんのニーズにこたえるのではなく、ちゃんと顔を見えるひとりひとりのために作る。

自分の仕事に誇りを持つこと。頑なに守り続けること。それは着る人のためだけではなく、自分のためでもある。仕立屋としての矜持だ。ほんの数人のために彼女たちの喜ぶ顔が見たくて、全力を尽くす。三浦は、あなたの素晴らしい技術を生かしてたくさんの人を服によって幸せにして欲しい、と言う。実は心は揺れている。

彼女は完璧に仕事をこなす。祖母(先代だ!)の作ったものを引き継ぐ。彼女のパタンナー通りに仕事をする。自分のオリジナルはいらない。だが、本当にそれでいいのか。それは弱さの裏返しでしかないのかもしれない。自分というものを押し出すのが怖いから。だが、やがて新しい一歩を踏み出す。

この地味な映画が、こんなにも心に沁みるのは、不安を心に中に秘めてそれでも姿勢を正し、凛として生きようとする彼女の姿が素敵だからだ。この世界のかたすみには、こんな人がきっとたくさんいる。やがて消えていく職人が、市井に隠れて、ひっそりと生きている。ほんの一握りの人しか彼女の存在を知らない。それでいい。自分に忠実に、時代に迎合することなく、信念を持って生きる。人からは変人扱いされてもいい。そんな生き方があってもいい。

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