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映画・演劇のレビュー

劇団925『劇団987の最後の公演』

2015-02-18 19:05:52 | 演劇
中西邦子さんは、ある劇団の最後をこんなにも自然体で見せてくれる。それは驚きだ。劇団の終わり、というドラマチックな(いささか自虐的でもある)ネタを仕込んで、こんなにもさわやかなお芝居として立ち上げてしまう。

これは重くて暗いお話にすることも充分可能だ。というか、本来ならそうなるような題材だろう。そして、その方がきっと作品としては面白くなるはずなのだ。だが、彼女は断固としてそうはしない。女性だけの小劇団が仲間の離脱により解散公演をする、というアウトラインから想像するようなドロドロした話からは、100万光年離れた何とも元気の出るさわやかな作品なのである。

 まるで自分の劇団(というか、個人ユニットなのだが)のリアルドキュメントのような(もちろん、フェイクだが)スタイルを思わせるタイトルを取りつつも、そこに描かれるものは、あまりにあっけらかんとしたのどかなお話。20年以上続く老舗小劇団が、いきなり解散することになる。中心メンバーが東京の劇団に客演して、そこでNHKのプロデューサーに見染められ、大河ドラマのレギュラー入りすることになったためだ。将に青天の霹靂。彼女が東京に気兼ねなく行けるように、劇団を解散しようということになる、という目茶苦茶な筋書き。でも、それを中西さんと久野麻子さんが言うと、なんか納得させられる。この2人はとてもいい人たちなのだ(というか、この芝居での役なのだが、でも、彼女たちの素がそうなのだ、たぶん)だから、彼女のため劇団を解散する。そろそろ潮時か、と考えていたのかもしれない。そこで最後の公演となる解散公演を成功させて、彼女をちゃんと送り出してあげようということになる。

たった90分ほどの作品で、3部構成(30分×3)の小さな作品だ。芝居の真ん中に解散公演の本番が(ダイジェストでだが)しっかりと劇中劇として挟まれる。その前後は4人の稽古場でのやりとり。公演前と公演後。実にシンプルなスタイル。そこにラストで思いがけないオチを付けて、カラリとまとめる。なんだ、そんな簡単なことだったのか、と拍子抜けするほど。でも、そうじゃない。

彼女たちはみんな、この劇団のメンバーが好きで、芝居自身も当然大好きなのだ。その当たり前のことを肯定するラストは心地よい。無理してではなく、無理なく続けるのだ。そういう姿勢を断固貫く。でも、そこには悲壮感なんかサラサラない。だって、最初から無理なんかしてない。例えしていても、大丈夫。なぜなら、お芝居が好きだから。たった4人の劇団員。そのうちのひとりが抜けるなんて本当なら一大事なのだ。でも、そこをさらりと流して、お互いの想いを汲み合う。そこからドラマを立ち上げる。

 この絶体絶命のピンチをここまでノーテンキに見せられると、もう何も怖くないや、と思えてくる。これはとっても元気にさせられるサプリ芝居なのだ。

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