8話からなる短編集。共通するテーマは死者との対話。いろんなパターンでここにはもういない人たちと向き合う。この何ともいい難い想いが、胸に沁みてくる。どのお話も大好きだ。これは池澤夏樹のよさが十二分に発揮された作品集。
死者は、そこにいる。彼らが僕たちに教えてくれるのは、終わってしまったことが悲しいのではなく、自分たちがたどった道のりが、どれだけ愛おしいものだったかを、しっかりと認識できることが大事だ、ということ。後悔のない人生なんかない。だけど、後悔しても何も変わらないし、そこにはなんの意味もない。反対に満足したらいいわけでもない。満足はそこで止まる。そこに留まることすらある。そのせいで、その先にあった本来もっと素晴らしい可能性を見失うことでもある。これはこの小説のお話ではなく、僕が今感じることでもあるのだが、これを読みながら、そんなことに想い至った。
どの作品にも、死者が登場する。それは時に人ではない場合もある。最初のお話なんか、まず陸地に打ち上げれれた船と向き合う。そこから始まる。たとえば、ふつうなら自分が出会えられるはずもない先人と向き合う。そんなこと、現実ではない。
これはただの幻だ。だが、圧倒的な風景の前で感慨にふける時、そこに幻が現れても不思議ではない。この小説のいくつものエピソードのリアルさはそんな感じだ。この幻想的な風景は理屈を超える。