コロナの影響で映画館が閉まっていた数か月。そんなことは今までなかっただけに、そのどうしようもない毎日に戸惑い、どうしようもない日々を無為に過ごしていた。ステイホームと言われて、自宅待機を強いられ、人と会うこともできず、悶々とした日々を過ごす。そんな2020年の夏のお話。
たった17分の短編映画だけれど、あの日のどうしようもないやるせなさが見事に切り取られる。もちろん、コロナが収束したわけではない今、こんなことを言っているのは、なんだか変な話だ。どちらかというとあの頃よりも今のほうが切実で、この先現在進行形で未来はまるで見えない。そんな現実があるのだけれど、この映画はなんだかとても懐かしく、つい最近だったあの日が過去のことのように美しく描かれている。
4月3日公開予定だったジム・ジャームッシュの新作「デッド・ドント・ダイ」が、突然公開延期になった。同時に映画館が休業する。あれはジャームッシュが手掛けたゾンビ映画だ。しかも、一応はコメディみたいな映画だった。映画館が再開してすぐに公開されたときに真っ先に見に行った映画だ。たわいもない映画だ。だけど、その力の抜け方が好きだった。わざわざ劇場まで見に行かなくても構わないレベルの映画だった。だけど、あれを映画館で見ることの至福を感じた。
この映画のふたりが見に行くのはその映画である。シネフィルであるふたりの選択はあの日の気分を実に見事に象徴している。というか、あの日のあの映画は、ようやく公開された期待の新作だったのだ。再開された映画館では最初はなかなか新作映画が公開されることはなかった。僕らはみんな映画に飢えていた。
この映画はもちろんそんな気分を代弁するものではない。だけど、初夏のさわやかな日差しの中、久しぶりで会う恋人たちが向かう映画館で見る映画がオフビートのゾンビ映画だということ。それはマニアックすぎるけど、なんともここちよい。もちろん、深く考えることなく、これを単純に2020年夏のある日が描かれた作品だと受け止めればいい。ここに描かれるのは、恋人たちのある日のスケッチで充分だ。きっと何十年か後になれば、これはささやかな日常が奪われたあの頃の思い出の風景となるのだろう。
コロナ自粛は続く。でも、僕らの日々も続く。ささやかな幸せを求めて、今日も1日が終わり、明日が続く。