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映画・演劇のレビュー

『夏、至るころ』

2021-02-12 20:45:12 | 映画

17歳の夏。高校生活最後の夏。人生において、ひとつの大きな区切りとなる時。これから何をしたらいいのか、将来に対する漠然とした不安を抱え、でも、何も出来ないで、時を無為にやり過ごしていくばかり。

夏祭りで太鼓を叩く。ずっと一緒だと思っていた友が離れていく。自分は何を選べばいいのか、わからない。静かに今を受け止めていく。まるで昔の侯 孝賢(『童年往時』や『恋恋風塵』の頃ね)の映画を見ているような懐かしさと優しさがある。福岡の田川市という小さな街を舞台にして、ここで生まれ育った若者がここから旅立っていくまでの短い時間が描かれる。

 

不器用な映画だと言うことはわかっている。でも、そんなことはどうでもいい。確かなものがここにはあり、自分の撮りたいものをきちんと撮っていこうとする。それだけで十分だ。

監督は女優の池田エライザ。まだ若い女の子がノスタルジックな感傷に浸って自己中の映画を作るのなら、辟易させられるけど、彼女はそうではない。男の子ふたりのお話で、そこにはよくあるパターンの恋愛は介入せず、退屈な毎日を丁寧に綴っていく。据えっぱなしで動かないカメラの前で彼らは時には饒舌に、時には無口に自分の気持ちを伝えようとする。上手く伝わらなくてもいい。伝えたい気持ちだけで十分だ。まだ20代前半の若い監督である池田エライザは落ち着いたタッチで自分の描きたいことに対して自信を持って彼らをしっかりと見守る。

 

「みずみずしい青春映画の佳作だ」なんて言わない。そうじゃなくて、今ここに彼らがいて、その彼らの想いをしっかりと捉えたい、それだけ。彼女にとって彼らは遠い昔ではなく、今の自分に限りなく近い。だから冷静に彼らを見守ることが出来る。彼らよりちょっとだけ大人で、等身大の子どもの視点を忘れない池田監督の視座がしっかり見えてくる映画だからこれはこんなにも心地よいのだ。

ただ、プールのシーンはちょっと恥ずかしい。『台風クラブ』へのオマージュか。いや岩井俊二の『打ち上げ花火』か。やりたい気身持ちはわかるけど。まぁ、そんなことはどうでもいい。おじいちゃんとのやり取りは『恋恋風塵』。リリー・フランキーがいい味を出している。

 

 

 


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