このなんとも不思議な芝居を見ながら、彼女たちの時間に観客である僕たちも迷い込む。ふたりの女と、彼女たちのところにやってきた男。階下の老人の死からスタートして、禁止されている草を秘密で育てる彼女の日常が、スリリングに描かれる。もうひとりの女は、そんな彼女に仕事を依頼し、時たまやってきては様子を見る。この秘密で栽培した草を売る仕事は彼女の役割か。やがて、終わりがくることはわかっている。だから、それまでのつかの間の時間。部屋の中で育てる。部屋いっぱいに並べられた植木針の異様な風景。そこで暮らす女。
普通じゃない時間がここには流れる。そんな時間に身を委ねる。詳しいことは何もわからないし、説明するつもりもないらしい。危うい時間が描かれる。女は世の中から身を隠してここで暮らしている。
やがて、この違法行為を,盗撮され、でも、それを知らさないまま老人は死んでいた、ということがわかる。彼はずっとこの女の部屋を監視していたのだ。老人は彼女が違法行為をしていたことを知っていた。だが、それで彼女を脅すわけではなく、ただひっそりと見ていたようだ。なんのために、何がしたくてそんなことをしたのか。彼が何を望んで何をしていたのかも、彼がこの芝居の冒頭で死んでいるからわからない。終盤は不在のこの老人の視線を感じながら、この芝居を見つめることになる。
事件を描くのではない。異様な設定を淡々と切りとり、それ以上の説明もしない。90分間、わけのわからない時間を過ごすことになる。だけどそれがどうしてこんなにも心地よいのだろうか。