劇団ひとり『晴天の霹靂』

　読みやすい小説だ。なんと通勤の１往復分の電車の中だけで、ほぼ読み終えてしまった。２３０ページが１時間半くらいなのである。いくらなんでもそれは早すぎる。要するに、それくらいにこれが読みやすいってことだ。それで面白かったなら、いいのだが、早いだけに、中身も薄い。こういうどこにでもある話をなんの仕掛けもなく見せられてもなんとも思わない。泣かせる話だし、それなりには読ませる。悪くはないが、それだけだ。

　これは、日本版『バック・トゥー・ザ・フューチャー』でしかない。両親の若い頃にタイムスリップして、知らなかった彼らの過去と自分の出生の秘密を知る、なんてもう使い古された設定でしかない。今頃この手の話をしても、何の新味もない。

　もうこれは、既にやり尽くされた。昭和４８年というなんとも微妙な時間にも新味はない。大体、劇団ひとりは、自身もこの手の映画である『バブルへＧＯ！！』に出演しているから、書きながら、まるで新鮮味はなかったのではないか。まぁ、展開はまるで違うから今頃そんな映画の話をされても困るだろうが。それにしても、なんでこの話だったのだろう。父親を亡くした売れないマジシャンが、タイムスリップして、父親の若き日に行く。こんな底の浅い話で、おきまりのパターンを踏襲し、それなりには上手いから、ちょっといい気分にはさせられるのだが、そこまででしかない。それ以上のものはまるでない。これでは拍子抜けだ。

　せめて、主人公たちを、もう少しだけでも、このお話の中で成長させてあげたのなら、よかったのに。それすらない。これではただの思いつきでしかない。