今年のベストは先週読んだ『光のとこにいてね』で決まりだと確信していたのだが、さらに1冊。凄い本と出合った。年末怒濤の傑作ラッシュだ。うれしい。2週間後に今年のベストテンの選考をするつもりだけど、さて何になるのか。というか、今年は予定通り300冊読むという目標が達成できそうだ。そちらもうれしい。今年はその中からのベストテンである。楽しみ。でも、1月とかに読んだ本は内容を忘れている。それどころか読んだことすら記録を見ても思い出せない本も多数ある。週に5,6冊ペースで読んだりするからそういうことになるのだろう。
さて、この本である。これもまた『光のとこにいてね』と同じでふたりの女の子のお話だ。大学で出会ったジヒョンと菜々子。ふたりとも医科大の4年生。ジヒョンは韓国からの留学生だ。タビケン(旅研。旅行研究会ね)というサークルで一緒になった。
今から22年前。ふたりは同じ産院で生まれた。不妊治療で有名だった病院だ。ふたりともそこで人工授精で生まれた。お話は1996年の夏、培養室から始まる。22年後、偶然の出会い。このふたりのそれぞれの家庭事情を描きながら、出会いからの日々の出来事が綴られていく。そして、菜々子が気付く。自分は両親から生まれた子供ではないのではないか、と。献血から明らかになる血液型の差異。O型の両親からはB型の子供は生まれない。では、自分は誰の子なのか。ジヒョンと菜々子は病院で取り換えられたのではないか、というミスリードも含めて、出生の秘密を巡るお話が中心にはなるのだが、それだけではない。もっと大きな意味でのふたりの問題が時には別々に、時には交錯しながら描かれていく。これも400ページに及ぶ大作だ。
彼女たちのそれぞれの恋の顛末も描かれていく。すべてはちょっした(でも、とても大きな)医療ミス(というか、どこにでもあるような単純なただの間違い)がきっかけにはなる。もちろん生まれてきた子供には何の罪もない。だけど、彼女たちが、そしてふたりの家族が抱える問題は途方もない。そしてそれは彼女たちだけの特別な問題ではなく誰もが抱える問題ではないか、と思う。自分は自分。そんなことわかっている。だけど、自分はふたりの親から生まれてきたということも事実だ。血縁のつながりとは何なんだろうか、考えさせられる。
終盤、韓国に行き、自分が生きていたかもしれない人生や家族と遭うシーンが素晴らしい。どうしようもない現実の前で苦しむのではなく、涙する。ありえたかもしれない自分をそこに見る。でも、それは現実ではない。現実は今までの人生であり、さらにはその先にちゃんとある。
菜々子のお話と並行して描かれるジヒョンのお話もまた素敵だ。彼女は日本で生まれ6歳で韓国に戻った。暖かい家族の愛に包まれて、でも自分の意思を曲げずに前を向く。彼女が日本に来たわけは6歳の頃好きだった男の子のためだ。彼を追いかけて日本に戻ってきたのだ。もちろんそれだけが理由ではない。だけど、彼女の心の片隅にはいつだって王子様だったあの頃の彼がいた。そして彼女は彼を見つけ出す。だが彼女が再会した彼はとんでもない病に侵されていた。(ALSで体の機能を失う)そんな彼との交流を描く時間が丁寧に描かれる。
お話が少し出来すぎているからリアルではないけど、このお話の展開の中からある種の普遍にたどり着く。そういう意味でもこれは『光のとこにいてね』とよく似ている。この2冊はなんだか双子のような小説なのだ。