2年10か月ぶりの「劇団きづがわ」公演だ。ようやくきづがわの芝居を見ることができる、ということがこんなにもうれしい。コロナ禍を経て、満を持しての公演である。高齢者の多いベテラン劇団はいずこもこの期間、公演を控えてきたが、もう3年である。再開を待ち望んだし、うずうずしているのではないか。
大人数による大作ではない。コロナ禍を考慮したとても慎重な公演ではないか、と思ったが必ずしもそういうわけではない。今回は女性だけの3人芝居だ。だがこれは小さな芝居ではない。この2時間に及ぶ作品は彼女たちを取り巻く様々な問題を提起する。それをテーマ主義に陥ることなく、重くもなく軽くもなく絶妙なバランスで展開する。
50代の3人の女たち。彼女たちの抱える問題が浮き彫りされる。3人は昔からのなかよし友だちだ。オチョビ(西尾純子)は主婦で孫までいる。バツミ(山村八子)は今は年の離れた爺さんと暮らしている。そして、ツンコ(林田彩)。彼女と連絡が取れない。正月明けなのに、5日も有給を取り休んでいると聞き、2人は心配になって彼女のマンションを訪ねてきたのに、いくら呼べども返事がない。仕方なく、カギを開けて入るとそこはゴミ屋敷、というところから芝居は始まる。永井愛の戯曲を、いつものように林田時夫の演出で送る。重い話ではないし、ちゃんと肩の力が抜けた作品に仕上がっている。だけど、このお話が描く問題は切実だ。50代を迎えた女たちが、自分らしく生きるためには何が必要なのか、というテーマは軽いコメディで終わらない。
この先、ひとりで生きていくのは怖い。でも、安易な結婚はしたくない。仕事はやりがいがある。でも、課長職を任され、人間関係も含めて、不安だらけだ。恋人と別れた。ツンコが抱える問題は彼女だけの問題ではない。彼女の親友であるふたりは彼女を支えることになる。決して彼女のことを他人事だとは思えない。立場はそれぞれ違うけど、同じ年齢で、それぞれがそれぞれの場所で自分と戦っているから。だから他人事なんかじゃないのだ。演出の林田さんはそんな彼女たちを優しく見守る。
なんて優しい芝居だろうか。いろんな問題が山積みしているけど、それをひとつずつ少しずつ片付けていくしかない。このタイトルとゴミだらけの部屋が象徴するものは、わかりやすい。3人が部屋の片づけをする、ただそれだけのお話なのだけど、それだけだから素敵なのだ。芝居の進行と合わせて、ちゃんと部屋は片づけられていくのがいい。それが当然のことだけど目に見える。最初は30分だけね、と言い始めたけど、1時間がたち、さらに時間は過ぎていく。リアルタイムの芝居の進行通りで彼女たちはちゃんと散らかり放題の部屋を整えていくのだ。もちろん、ちゃんと芝居もしている。(そんなの当たり前かぁ)
3人のアンサンブルが見事だ。片づけの手を止めずに動かしながら、膨大なセリフをこなしていく。(もちろん、演技もしている!)友情物語だけど、嘘くさくならないのは、この台本がお話ではないからだろう。女たちのとりとめもないおしゃべりのスタイルになっている。そして、それがリアルなのだ。小さな芝居である。だけど声高にテーマを叫び啓蒙しようとするのではない。押しつけがましくないのがいい。さりげない。でも、そこがちゃんとリアル。こんなにも瑞々しくてチャーミングな芝居をベテラン劇団が見せてくれたことに感動した。