辻村深月のお仕事小説の映画化。アニメ業界を舞台にして、土曜5時台、アニメとしてのゴールデンタイムで放送されるライバル同士のTV局の視聴率合戦が描かれる。ワンクール12話(昔は13話だったのではないか?)同じ放送開始日から終了日までの12週間、視聴率とネットでの評判が競われる。業界最高の対決に、世間の注目が集まる。新人監督のデビュー作とアニメ界の王子の期待の新作の一騎打ち。毎回の視聴率に一喜一憂する面々。さてどちらが勝つのか、なんて感じのお話なのだけど、この基本設定にまずリアリティないです。だから、見ていて醒めてしまう。こんなことに世間の注目がそこまで集まるとは思えない。作品の評価なんていうのも微妙な問題だし、それがリアルタイムで変動するとか、最終回の内容がぎりぎりまで決まらないまま制作が進行するとか、あり得ないと思うのだけど。一番大事な基本となる部分がそれだから、お話に乗れないのが悔しい。というのも、この映画、お仕事ムービーとしては実によくできていて面白いのだ。
新人監督役の吉岡里穂が素晴らしい。彼女が期待に押しつぶされそうになる期待の新鋭を見事に演じた。そして彼女を中心とするアニメ制作の現在を描くシーンにリアリティを感じた。たくさんのスタッフがそれぞれどんな仕事をしているのか、納期に間に合わせるために、どういう戦いをしているのかがリアルに描かれる。この仕事自身を描く部分がとても面白いし、納得するのがいい。(実際はこんな感じではないかと、思わせるからだ。でも、本当はわからないけど。)アニメ制作という過酷な現場を描きながら、それでもそこで働く人たちの姿が感動的に描かれている。そこにはインタビューで吉岡自身が言っていた「強い意志と折れない心」が確かに描き込まれてある。これはそんな作品に仕上がっているのだ。
だが、それ以外の部分に難がある。ふたつのアニメ番組を並行して描き、どちらも画期的な作品で、視聴者から評判をとっていて、歴史に残る作品になるのではないかという期待が高まる、という展開にも無理がある。とても丁寧に両作品が劇中劇として作られてあるのだろうけど、制作過程で伝説となるレベルの作品だなんてとても思えないし、そういう設定自体に無理があるのではないか。そこでもひっかかる。こんなにも力のある作品なのに、基本のところでつまずいてしまう、というのが残念でならない。
王子役の中村倫也もそうだ。新海誠レベルの監督ではないと納得がいかないのだが、描かれるキャリアがあまりにシンプルで、王子とか鬼才と呼ぶのはなんだか似つかわしくない。基本のところで無理無理なのが、仇になり細部(東映動画が監修しているのだろう)がこんなにもリアルなのに惜しい。
吉岡を中心にした映画だけど、群像劇にもなっていて、ライバルの中村との対決ではなく、お互いがプライドをかけて作品作りに挑むという作りになっているのもいいし、そこにお互いのプロデューサー(柄本佑、尾野真千子)を配したキャスティングもいい。セコンド込みのバトルという構成だ。そしてチーム戦である。仕事と向き合う姿勢やその姿が見ていて気持ちよく伝わる。2時間9分があっという間の出来事だ。だからそれだけに大前提の設定のウソがその世界をぶち壊している気がして悔しいしもったいない。