作者にとってなんと10年振りの新作長編となる自伝的小説。らしい。そういえば。原田宗典なんて久しく読んでなかったな、なんて思いつつ、本を手に取った。そのまま、読み始めた。彼と僕とは同い年で、そんな彼が、ここで「死を巡るお話」を書く。今、このタイミングでこういうものを読むことになった偶然を思う。身近な人が死ぬ。身近だった人も死ぬ。そういうことが続くと、死について、考えざるを得ない。落ち込むことばかりだ。でも、毎日忙しく立ち止まる暇もない。
生と死。娘が初めて昨年の11月に生まれた赤ちゃんを連れて大阪に里帰りしてきた。同じ時、いろんな意味でお世話になっていた人が亡くなった。帰ってきた。去って行った。この数日、そんな対照的なものを、目の当たりにして、衰えゆく自分(こちらは、まだ切実ではないけど)や、母親(こちらは切実)のことも、ある。たまたま、とは言えない運命的なものを感じながら、一瞬で読み終えた。後半、少し、違うな、と思うけど、彼と僕とは別人だから、それでいい。
昔、藤原新也の『メメント・モリ』という写真集が出た時、衝撃を受けた。座右の書、としていつも手にしていた。80年代、20代だった頃、藤原新也と沢木耕太郎、川本三郎の3人が僕のアイドルだった。(あれから30年がたっても変わらないけど。)原田宗典もその頃、よく読んでいた。(気がする)
今回のような作品を彼が書いたのは、彼にしてみれば、それなりの背水の陣なのだろう。でも、思ったほどの悲壮感はないのがよかった。刑務所の話とか、ユーモラスな部分が少し浮いているけど、そんな居心地の悪さも含めて、この作品に賭ける彼なりの覚悟を感じさせられた。人は必ず死ぬ。死ぬ前に、何が出来るか。もちろん、ここにはこれまで生きてきて感じたことや、出会った出来事も回想される。そこでは懐かしさではなく、淡々とした事実が列記される。そんなさりげなさがいい。感傷過多になるとこんなのは読めなくなる。縦に目が付いている女の話が気味が悪くて、あの気味の悪さには心当たりがある。