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映画・演劇のレビュー

HPF2012 金蘭会高 『シレンとラギ』

2012-07-31 22:27:13 | 演劇
驚きである。金蘭が新感線の芝居に挑戦するなんて。新感線は山本先生の趣味には、全くそぐわないのではないかと勝手に思っていた。派手な立ち回りと、つまらないギャグもいっぱいあって、冗長だけど、商業演劇としての完成度はとても高いエンタメ芝居である。

 それを金蘭流にアレンジするのは、一見簡単そうに見えて、実はとても難しい。中途半端なことをすると、目も当てられないような失敗作になる。かといって、自分たちのフィールドに引っ張り込んでくるには、これは手強すぎる。台本はとても内容が薄いのに、でも、そのことも含めてちゃんと考えられてあるから、書き直し、アレンジするのは、難しい。ストーリーとテーマを突き詰めると、けっこう深い内容の芝居にリライトすることはできるだろう。だが、そうすると、この独自の世界が壊れてしまう。

いろんな意味でこれはバランスが大切な作品なので、それをきちんとクリアしながら、キンラン演劇にリニューアルするのは、大変なことだったはずだ。やれることとやれないことがある。大劇場用の絢爛豪華は芝居を小劇場で、女子高生だけで演じる。オリジナルのスケールに匹敵するものを提示するのは不可能だ。だが、このスペクタクルをしょぼいスケールで見せても意味はない。ギャグやダンスシーン、立ち回りを最小限に抑えて、お話の流れをきちんと追いかけることに徹したら、先にも書いたように内容の薄さが露呈するばかりである。

 山本先生がパンフで書いておられるように「南北朝時代とギリシャ悲劇を下敷きにしながら、3.11以降の現代の生と死が巧みに反映している」台本として再構築したなら、おもしろいものになったはずだ。しかし、それをテーマとして前面に押し出すと反対に陳腐なものになりかねない危険性もあるし、それによりオリジナルのよさを損なう。エンタメとしてのおもしろさと、スピード感を大切にして、シレンとラギの運命のドラマに感情移入させるドラマの王道をゆくような作り方を守るのが一番大事な作業ではなかったか。もちろんそれがちゃんと出来ている。だから、これは感動的なスペクタクルになった。2時間10分に及ぶ超大作である。


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