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映画・演劇のレビュー

加納朋子『空をこえて七星のかなた』

2022-07-03 17:26:09 | その他

紹介文には「南の島で、山奥のホテルで、田舎町の高校で。星を愛し星に導かれた人々が紡ぐ七つのミステリー」とある。そうか、これはミステリーなのか、と僕は思う。でも、ほんとうはそうじゃない。良質のミステリーは最良の人間ドラマでもあるから、つまらないジャンルわけの分類なんかどうでもいい話なのだが。

この短編連作は、まず独立した星を題材にした短編集として素晴らしい。同時に連作長編としてのスタイルも踏んでいるけど、大事なのはそこではない。それどころか1本の長編としては、お話があまりにうまくいきすぎていて作りすぎだ。最初からそういう意図だったのかもしれないけど、お話を強引にひとつにまとめただけの最終話は正直言うとつまらない。嘘くさいし。でも、それぞれの短編の切れ味は最高で、何度となく泣いた。だから、めでたしめでたしのラストの大団円もしかたないかぁ、とは思う。

だけど、同じように短編連作から1本の長編につなげた作品という意味では、たまたま時を同じくして読んだ傑作『恋愛問題は止まらない』には及ばない。あれと比較したならその差は歴然としている。あの小説の見事さの前ではこれは失敗作だと言っても間違いではないくらいに。あの作品は短編連作であるという方法を使うことで、主人公たちの熱い想いや、彼らの生きようとする姿が見事に伝わった。方向が方向を定め、作品の力となっていたのだ。だが、これは反対に短編だからこそ生きるお話を長編の仕立てたことがただの蛇足にしかならなかった。もちろん、あのラストは優しいし、彼らが生きてきたご褒美としては納得いくことなのだけれど。まぁ、たまたま2作続けて読んだためこんなふうに感じてしまったのだけど、とはいえ、この小説も十分素晴らしいことは事実だ。

冒頭のエピソードのハッピーエンドが作品全体のラストへとつながる。今、七星の母親がいないことを、こんなふうに描くなんてなかなか凄いことだと思った。しかも、その後の4つのエピソードは完全に独立した話だと、ミスリードさせるのも上手い。心に沁みるエピソードが続く。ただし、その後のラスト2編。七星の話にすべてを収斂させるので、なんだか上手くまとめるあざとさをそこに感じてしまう。それ自体は悪くはないけど、短編としての感動が薄れてしまったことも事実だろう、なんだか難しいね。1話から5話までのひとつひとつのエピソードがあまりに素敵すぎて、僕にはそれらが運命のようにつながるということに納得がいかないのだ。

 


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