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荒井晴彦の新作。ピンク映画業界で生きる監督、栩谷(綾野剛)とかつて脚本家を目指していた伊関(柄本佑)。ふたりはたまたま出会い、一晩を一緒に過ごすことになる。居座る伊関をアパートから追い出すために、栩谷は彼の住む部屋にいく。そこで何故かふたりは自分たちの過去の恋愛について話すことになる。それだけのお話。
これは忘れられない女について語る恋愛映画だった。懐かしいピンク映画界のこと、その衰退を描くことが目的ではなく。レクイエムではあるけど、それはふたりが好きだった人(同じ女)を懐かしく思うこと。根底にあるのはそんなセンチメンタル。
あの荒井晴彦がこんな甘い映画を照れることなく作るなんて驚きだ。しかし、70代になり、人生の終焉を目前にして,素直に気持ちを吐露しようと思ったのかもしれない。さすがに感傷過多のやわな映画ではない。だけど素直で正直な映画。
同棲している彼女が他の男と心中して死んだ。その葬儀の夜から始まる。過去はカラーで現在はモノクロで描かれる。彼女を愛したふたりの男はお互いの思い出を語り合う。最初は同じ女の話をしているなんて知らない。(観客の僕らは知っているけど)終盤になってお互いが気づく。あまりに都合よく出来たお話でこんなのは現実ではないだろうけど、こんな寓話の中にそれぞれの人生が象徴される。誰もが心当たりのあるお話にシンクロしていく。ラストで栩谷は現実に戻ってくる。伊関なんて男は幻だったのかもしれない。朝、アパートを出る彼の姿を見せて映画は終わる。
ただ、エンディングで、カラオケで彼女とふたり『さよならの向こう側』を歌う場面が描かれるが、あれは幻ではなく,確かな記憶なのだろう。切ない。