まさかこの映画で泣くとは、思いもしなかった。懐かしいからではない。だいたい36年前の第1作『トップガン』にはまるで思い入れはない。当時大ヒットした映画で、僕も見たことは見たけど、それほどたいした映画ではない。トニー・スコット監督らしい派手で華やか、でもあまり中身のない娯楽大作映画だった。
あの映画でトム・クルーズは大ブレイクして、その後は誰もが知るところだろう。ハリウッドのトップスターになって現在に至る。そんな彼が今頃になってなぜこの続編を手掛けたのか。今の彼なら、企画は自由にできるし、やりたくないものは手掛けない。だから、きっと彼自身がこれを望んだはずだ。
無鉄砲な若者だった彼が40年近くの歳月を経て、初老の域に達する。もう若くはない。だけど、まだ年寄りでもない。できることなら生涯現役(サッカーのカズみたいだ!)のパイロットでいたい。いや、実際そうしている姿が描かれる。いくつになってもやんちゃしているトム。このマーヴェリックはきっとトムそのものだ。あるいは、彼の理想像なのだろう。現実を受け止めるしかないはずなのに、限界に挑む。それを傲慢で無残なものとして描くのではない。でも、絵空事の夢物語にするわけでもない。確かにこれは理想だろう。だが、その理想を爽やかに実現している張本人がトム・クルーズで、そんな彼が演じるマーヴェリック大佐は嘘くさくはない。トムならやってくれると見ている僕たちも信じられる。
この映画の素晴らしいところはそこに尽きる。ハリウッドの超大作娯楽映画だ。みんなが楽しみにしていた1級のアクション映画だ。だけど、それだけに終わらせないのがトムである。しかも、『ミッション・インポッシブル』シリーズ(もちろんこのシリーズは最高の映画だ。そしてトムのライフワークにすらなっている!)とは違い、これは、ただのアクション映画ではなく、青春映画であり、ヒューマン映画でもある。60になろうとする男を主人公にして、こんなにもかっこいい青春映画を作れるのだ。(普通なら、若作りはみっともない、と言われるところなのに、彼は無理なく若々しい)
自分の老いと向き合う映画ではないけど、ちゃんと実年齢に設定して、それでも若い姿を無理なく描けれるなんて奇跡だ。彼はいい意味で大人にならない。見事な大人なのだ。さらにはちゃんと恋もする。ジェニファ・コネリーが今なお美しい。(13歳の美少女時代からずっと彼女の映画を見ているからわかる)明らかに中年、初老の男女なのに、そんな彼らが美男美女の恋物語をちゃんと見せてくれる。だいたいそんなサイドストーリーも用意されるなんて贅沢で余裕がある。そして、このふたりが10代のような恋を見せてくれるのだからご愛敬。
教官としてここに戻ってきて、若いパイロットたちと一緒に不可能なミッション(これってミッション・インポッシブルじゃないか)に挑む3週間(2週間になるが)描かれる。CGではなく、リアルで描かれるドッグファイトが凄いのはいうまでもないけど、この映画はここに描かれるドラマが見事なのだ。40年近くもの歳月待たせただけのことがある。
なぜ泣いたのかは、そういうことなのだ。年寄りの冷や水ではなく、無理なく生涯現役を貫く姿に泣いたのだ。こんなふうに生きられたならいい。あこがれる。もちろん、そのためには努力をしているはずだが、そこは一切描かない。これはそんなことを描くための映画ではないからだ。しびれるくらいにカッコいい。誰もが憧れる男を自然体で見せてくれる。それがトム・クルーズという男だ。