下巻に入って話が急展開を遂げる。ゆっくり何かが起こる予感のようなものを描いた上巻とは全く趣を変えて、主人公も兄である崇に限定し、容疑者として拘留さてた彼が刑事の尋問のなかで何を思い何を感じていくのかが描かれる。
そして、事件は犯人の目論見どおりに潜在的に人々の心に中にあった闇を刺激し、連鎖反応を起こす。続々と新しい殺人を呼び込んでいく。「悪魔」はどこにいるのかはわからないまま、警察はなんとかして崇を犯人に仕立て上げようとする。彼らは本気で彼が犯人だと思っている。
ラスト150ページでようやく犯人が現れる。そして、いきなり死んでいく。そのへんの急展開の仕方はそれまで以上の加速度だ。振り落とされそうになる。後味の悪い小説である。犯人の死の後、警察から解放された崇が徐々に壊れていく様は、正直言って納得がいかない。彼ほどの男がどうしてこんなふうになっていくのか。事件の衝撃は拘留されて犯人扱いを受けたことではないことは明確だ。だが、警察での日々の中で彼が変わっていくのも事実で、だが、それがこんな結末では、承服しかねる。
彼の中にある不気味な部分は、弟の妻の、彼が犯人かも知れないという疑いを生み、生前の弟自身からも、兄と妻との関係に対する疑惑を生む。誰もが羨むような天才で、でも何を考えているのかわからない不安を煽る不気味さが彼の中にはある。そこがこの小説の魅力で、みんなが彼を犯人扱いした原因でもある。
あまりに優秀すぎて恐ろしい印象を人に与える兄と、あまりに普通すぎて何の印象も与えない弟。彼らが大人になり、それぞれの現実に中で生き、そして弟の死を通して兄は自分と向き合うことになる。
警察での執拗な取調べに対して完全黙秘を貫くことを通して見えてくるもの。それがもっと上手く描けていたなら、と思う。残念だ。鳥取の中学生の話も上手く絡まない。彼が同級生の少女を殺したことから、弟のバラバラ殺人の実態が明るみに出て、悪魔と名乗る犯人の行為が明確になる。終盤の展開は驚かされるが、そこまで提示してきたものを無理から収束させたような印象を与える。
決壊が起こりなだれを打ったように動き出す。後半部分はスピーディーな展開で面白かったが、兄と弟の確執を描く前半には及ばない。そこには確かに人という生き物の不気味さが描き切れていたからだろう。
だが、後半、広げすぎたお話をまとめ切れていない。昨年の広瀬のベストワン吉田修一『悪人』と比較したなら、その差は一目瞭然だろう。これはあと少しのところで傑作になり損ねている。
そして、事件は犯人の目論見どおりに潜在的に人々の心に中にあった闇を刺激し、連鎖反応を起こす。続々と新しい殺人を呼び込んでいく。「悪魔」はどこにいるのかはわからないまま、警察はなんとかして崇を犯人に仕立て上げようとする。彼らは本気で彼が犯人だと思っている。
ラスト150ページでようやく犯人が現れる。そして、いきなり死んでいく。そのへんの急展開の仕方はそれまで以上の加速度だ。振り落とされそうになる。後味の悪い小説である。犯人の死の後、警察から解放された崇が徐々に壊れていく様は、正直言って納得がいかない。彼ほどの男がどうしてこんなふうになっていくのか。事件の衝撃は拘留されて犯人扱いを受けたことではないことは明確だ。だが、警察での日々の中で彼が変わっていくのも事実で、だが、それがこんな結末では、承服しかねる。
彼の中にある不気味な部分は、弟の妻の、彼が犯人かも知れないという疑いを生み、生前の弟自身からも、兄と妻との関係に対する疑惑を生む。誰もが羨むような天才で、でも何を考えているのかわからない不安を煽る不気味さが彼の中にはある。そこがこの小説の魅力で、みんなが彼を犯人扱いした原因でもある。
あまりに優秀すぎて恐ろしい印象を人に与える兄と、あまりに普通すぎて何の印象も与えない弟。彼らが大人になり、それぞれの現実に中で生き、そして弟の死を通して兄は自分と向き合うことになる。
警察での執拗な取調べに対して完全黙秘を貫くことを通して見えてくるもの。それがもっと上手く描けていたなら、と思う。残念だ。鳥取の中学生の話も上手く絡まない。彼が同級生の少女を殺したことから、弟のバラバラ殺人の実態が明るみに出て、悪魔と名乗る犯人の行為が明確になる。終盤の展開は驚かされるが、そこまで提示してきたものを無理から収束させたような印象を与える。
決壊が起こりなだれを打ったように動き出す。後半部分はスピーディーな展開で面白かったが、兄と弟の確執を描く前半には及ばない。そこには確かに人という生き物の不気味さが描き切れていたからだろう。
だが、後半、広げすぎたお話をまとめ切れていない。昨年の広瀬のベストワン吉田修一『悪人』と比較したなら、その差は一目瞭然だろう。これはあと少しのところで傑作になり損ねている。