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映画・演劇のレビュー

『FLEE フリー』

2022-06-16 19:28:17 | 映画

なんともシンプルなタイトルだ。フリーは「自由」の意味だと思っていたが、タイトルには「FLEE」とあるから、スペルが違う。調べたら「〔危険などから〕逃げる、逃れる 〔安全な場所に〕避難する、」とある。こちらはさらにシンプルなタイトルではないか。あまりに単純で簡単すぎて映画のタイトルだとは思えないほど。たくさんのひとたちの立姿が描かれたチラシを見たとき、これを見たいと思った。ひとりひとりの姿がとても印象的で、興味深い。

アニメーション映画だ。デンマークや多数の国の合作らしい。(デンマーク・ スウェーデン・ ノルウェー・ フランス合作)主人公はアフガン難民。80年代からスタートして、主人公アミンの幼少期のエピソードから始まり、タリバンの圧政を逃れて家族はロシアに脱出する。さらにそこからヨーロッパの国に亡命するのだが、彼らの前には数々の困難が立ちはだかる。実話の映画化である。それをアニメーションにしたのは、モデルとなった人物の安全を守るためらしい。20年間封印してきた事実を語り始める。

アニメと実際の映像、当時のニュースフィルムの挿入で構成される。彼の告白をもとにして事実をアニメ化して描いた。アニメなのにドキュメンタリーと銘打つ。ここに描かれたことは彼が20年間封印してきた事実で初めてそれを言葉にして伝えた。その言葉をもとにして映画は作られた。描写は淡々としたタッチで声高な主張はしない。事実をゆがめることなく丁寧に描いた。アニメのキャラクターも基本無表情で感情を表には出さない。アニメはあくまでも事実を伝えるためのツールで、アニメならではの表現をしよう、とかいうふうに欲張らないし、目立たない。感情移入を求めない平板な描写に終始する。あくまでもドキュメンタリー的な視点を重視した。彼が味わった過酷で苦渋に満ちた日々を冷静に語ることで、映画としてのカタルシスを求めるのではなく、このことを(そこで感じた想いを)観客に知ってもらおうとしたのだ。そして、事実の列挙を通してその目撃を求めたからだ。だから、僕らは確かにこれをしっかりと受け止める。


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