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映画・演劇のレビュー

劇団大阪 新人公演『温室の花』

2013-02-26 22:02:35 | 演劇
これはスケッチブックシアター・プロジェクトの武藤豊博さんが、劇団大阪に入団して初めて手掛ける作品。今井一隆さんの台本を彼の演出で見せる。とても楽しみにしていたのだが、残念な出来になった。まず、この台本があまり面白くない。なぜ、この本を使ったのだろうか。これなら武藤さんのオリジナルのほうが面白いものができたのではないか。まぁ、劇団の問題なのだろうが、既成台本でどれだけうまく演出できるのか、新人演出家の腕前を試そうという試みなのだろう。

だが、残念ながら、武藤さんは融通が効かない。用意された台本を自分に引き寄せることも、脚本自身の世界を正確に再現することもできず、なんとも中途半端な舞台になった。演出のねらいはどこにあったのか、それが見えない。

 タイトルと内容の齟齬も如何ともしがたい。なぜ、こんなタイトルにしたのか。とても興味深いタイトルなのだが、それがこの作品からは伝わらない。しかも、これは台本の指定なのだが、(たぶん)この作品の中心にいるはずの母親を完全に不在のままにした。これはとても大切な設定のはずなのだが、その仕掛けがまるで意味をなさない。なぜ、こんな設定を作ったのか。僕が見たこの芝居からはまるで伝わらない。それは演出のミスなのか。そうとばかりは言い切れない気がする。

 入院した母親の病室を訪れる家族、友人、母親の学校の教え子。病院のスタッフ、彼らが織りなすドラマなのだが、わざわざ母親をここに登場させないのは、この程度のお話ならとても不自然だ。不在の母親を象徴として見せるにしても、その意図が必要で、ここからはそれが感じられない。

 まず、3人姉兄弟のそれぞれが抱える事情が描かれる。そこに母親と離婚した父親がやってくる、という設定。そこから生じる諍い。この家族のこれまでの歴史も見え隠れして、今ある状況の中から、何が生まれるのかが描かれる、はずなのだが、これではまるで、何も見えてこないのだ。

 この作品の簡単な解説にはこんな文章が付されてある。

「橋のこっちの、細い急な階段を上がった喫茶店・・・。 ぬるぬるした廃校になった小学校のプール。今は取り壊されて、斎場に なってる。北の町の古い病院、遠い昔の悲しい事故・・・。 ありふれた日常のささやかな営みの中に、それぞれの起承転結は、季節を問わず訪れる・・・。 」

 これって、なんか、まるで僕が見たこの芝居とは関係ない気がするのですが、この文章は何なのだろうか。作品の意図はそんなところにあったのか? 確かに病院の話だし、窓の外には新しくできた斎場はあるようだ。だが、それがドラマの中で何も活かされていない。親子の確執もなんか絵空事でしかない。この解説のような世界がここには展開していない。

 武藤さんの劇団大阪デビューなのに、これではなんだかすっきりしない作品だった。


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