習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『少女は自転車にのって』

2014-01-18 23:11:41 | 映画
 たぶん、初めて見るサウジアラビアの映画だ。日本では公開されることがなかった。そして、そこに初めてイラン映画を見たときのような感動を受けた。アッバス・キアロスタミの『友だちのうちはどこ?』である。あの感動に匹敵するのだ。それだけで、このすごさは理解してもらえるはずだ。サウジアラビア初の女性監督ハイファ・アル=マンスール。彼女の名前をちゃんと覚えておこう。これから世界を席巻するはずだ。

 主人公の少女がすばらしい。彼女のちょっと反抗的な態度がいい。それが卑屈でも、悲惨でもなく、大変な状況にもかかわらず、とても自然体なのだ。そこがいい。学校でも、家でもちょっと不貞腐れたりもするけど、しかも、いろんなところでちゃっかりしてるけど、でも、とてもしっかりしている。輝いている。これはそんな10歳のおてんば少女ワジダと、幼なじみの少年アブドゥラのかわいいラブストーリーにもなっている。

 サウジという国の市民生活レベルでの現状が、伝わってきて、それがとても新鮮だった。今までまるで知らなかったことが、そこから見える。もちろん、一般常識としてのイスラム圏の生活スタイルはなんとなくわかる(気がする)けど、それが実際に映画の中でこんなふうにふつうに描かれると、なんだかそれだけで衝撃的だったりする。きっとサウジの人が見たなら、当たり前でしかないような描写なのだ。人通りがあまりない町並み。砂が風に舞う緑の全くない黄色っぽい町。女は外ではもちろん黒い服で顔はベールで覆われたまま。

 ふつうに男尊女卑とか、一夫多妻制とか、封建的なシステムがまかり通っている。女であることが、どれだけ不憫なことか。でも、そんななかで彼女はとても自由に生きる。そのせいで周囲から誤解されたり、さまざまな障害にあったりもするけど、負けない。

 ただ、自転車が欲しい、それだけのことが、彼女が女の子であるということだけで、どれだけの困難になるか、映画はそこを起点にしてすべてが描かれていく。一種の児童映画なのだが、イランの児童映画が、実はイラン映画の困難の克服から生まれたのと、同じようにこの映画は児童映画のスタイルで声高には語れない問題にメスを入れることを可能にした。ラストの自転車を手に入れた彼女の幸せそうな笑顔が印象的だ。それが結論ではない。彼女の戦いはまだ始まったばかりだ。だが10歳の少女のひとつの願いはかなった。ここからすべてが始まる。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ハンガーゲーム2』 | トップ | ブルーシャトルプロデュース... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。