これはちょっとしたホラーだ。なんなら清水崇監督の「恐怖の村シリーズ」の1作として取り上げてもいい(笑)、ほどに。(残念だが、あのシリーズはもう終了したみたいだけど)DV夫から逃げ出した妻と娘が紛れ込んだ山間の村。地図にもないそこはアルツハイマーの老人たちを収容する施設だった。もちろんこれはホラーではない。シリアスな「医療もの」である。これは認知症高齢者の看取りまでを請け負う施設、現代の姥捨て山。そこで彼女たちが過ごす時間が描かれる。だが、従来の南杏子作品とはまるで手触りの違う世界を提示する。それが最初に書いたホラーテイストなのである。
バブルの後、破綻したリゾート施設を買い取り、そこを使いまわしして利用した認知症専用の巨大なグループホーム。そこに迷い込んだ母と幼い娘のふたりが、この施設の謎に迫るというミステリータッチの作品になる。これは認知症の現場の問題や認知症対策に対する一つの提言をするのだが、やがてそれが、この怪しい施設の運営にかかわる謎に向かう。そういう方向でお話を引っ張っていくのだ。だからこれは一応今回も一応はいつものように医療の現場を扱うのだが、南杏子としては新境地でもある。しかも、終盤思いもしない展開が待ち受ける。この村の秘密を巡るお話はちょっとしたSFで驚くが、それだけではない。さらなるどんでん返しも用意されるエンタメ作品なのだ。(「老々介護、ヤングケアラー、介護破綻・・・認知症の今に挑む」なんて帯には書かれたり、するけど)
荒唐無稽とは言わないけど、エンタメ寄りのその展開は、幾分無理があり、だから少しぎくしゃくしていてなんだかバランスがよくないのは残念だが、ラストまで飽きさせない。