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映画・演劇のレビュー

桃園会『僕は誰にそれをあげるんやろう』

2022-08-29 19:47:54 | 演劇

チラシには「桃園会30周年記念作品」とは書かれていない。「ウイングフィールド30周年記念事業」とある。「桃園会第52回公演」とも。3年ぶりの新作だ。橋本健司のオリジナルを、劇団清水企画の清水友陽が演出した。役者は4人。はたもとようこと森川万里、そして加納亮子、さらには橋本健司。この4人の精鋭が深津世界との邂逅から、芝居を始める。ここには今はいない深津篤史。彼がなくては桃園会はない。だけど、もう彼はいない。彼の死から今日まで、それでも桃園会は続く。今回は、(今回も、)深津へのオマージュ。そこから先に進むために。

僕が初めて深津作品と出会ったのは、このウイングフィールドで、だ。第7回公演『beside paradise lost』。それから(ほぼ)すべての作品を見ている。とても好きだった。あの寂しい世界が。

今回橋本は、ここに深津のさまざまな言葉をコラージュさせた。4人がそれを見せる。今ではなく、それはもう昔、でも、今の彼らが今の姿でそれを演じる。演出は深津自身だ。ここには不在の彼に成り代わって(一応)清水が担当する。短いエピソード以前の言葉の連なり。そんな点描が連なることでその心象風景はひとつの想いとなる。

彼らは今回あえてこういう個人的な芝居を作った。私家版だ。誰に見せるのでもなく自分たちだけのための作品。だけど、それを演劇作品として提示したのは、そこに込められた深津への想いが1本の芝居として成立すると信じたからだ。独りよがりではなく、みんなの想いはちゃんと客席に伝わる。これは実に「桃園会30周年記念作品」にふさわしい。いや、これしかないだろう。そんな作品に仕上がった。だから、なんだか胸いっぱいで多くは語れない。30周年おめでとう。ここから桃園会はまだまだ続く。


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