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映画・演劇のレビュー

『アキラとあきら』

2022-08-29 19:00:43 | 映画

この夏、偶然起きた三木孝浩3連作の第3弾である。同じ監督の新作が1が月の間に3作品毎週のように公開されるなんてことが、かってあっただろうか。映画全盛期の話ならともかく、今の時代に、である。もうそれだけで画期的な出来事だ。そんな3連作の掉尾を飾る作品である。しかも、今回の作品は今まで彼が手掛けたこともない題材なのだ。その新しい挑戦に挑んだ成果はいかに! ということで早速見てきた。ほぼ毎週で順番にこの3作品を見て、この夏は三木祭りとなった。(関係ないけど、三木聡の新作も先週見ているし)出来上がった映画は期待通りの作品に仕上がっていた。うれしい。

彼は池井戸潤の経済小説に挑んでも、ちゃんといつもの三木監督作品に仕上げる。これはある種の青春映画だ。お話の面白さや、相手を打ち負かすための戦略とかいう側面で見ると、いささか物足りない面もあるかもしれないけど、膨大なお話を2時間ほどの上映時間に収めるためには、ポイントを絞り込む必要がある。そこを得意の青春映画のバターンに落とし込んだ。監督の興味は、ふたりの男たちの友情物語。不可能に挑むお話ではなく、友のためにすべてを投げ出して戦う姿を追うことにある。メガバンク同期入社の超エリートだったふたりがそれぞれ自分の信念に基づき自分なりの戦いを繰り広げる姿を前半は交互に描く。そして最後には力を合わせて理想を実現する。ある種のパターンだ。

それに、甘いお話かもしれない。だが、夢の実現のために奮闘する彼らの姿は眩しい。竹内涼真と横浜流星というふたりを主人公にして、さわやかなドラマとしてまとめ上げた。意外だったのは、上白石萌歌だ。そんなふたりの間に入り、サポートするポジションに彼女を配するなんて三木監督だからこそできた英断ではないか。彼女は自分に与えられたポジションを信じてただの脇役ではなく、先輩たちのもとで一生懸命戦うけなげな後輩を演じることで、この映画ならではの空間を作り上げる。大人の世界に入って、でもそこで子供時代のままの心を持ち、戦う。主人公たち2人とのチームが終盤の要として機能する。ふたりの主人公たちがそれぞれ夢の実現に向けて大人の世界で戦うことをサポートするのはふつうの映画なら年配の指導者になるはず。なのに、その需要なポジションを萌歌に委ねたところがこの映画の凄さであろう。

随所に多彩なキャラクターを配して、ドラマに奥行きを作るのではなく、映画はストレートに彼らふたりが目の前の敵と戦う姿だけを追う。単純でわかりやすい。目の前にいる困っている人を助けたい、ただそれだけの正義漢。そんな甘さがいくつもの障害を乗り超えていく。見ていて、これを「あほらしい」と思わせると負けだ。青臭い正義がちゃんと輝いて見える。そこが三木監督の凄さだろう。自分のやり方を変えず、それを武器にして新しい挑戦に挑み、別ジャンルのはずの経済ドラマをこんなにもさわやかな青春映画に仕上げてしまった。凄い。(「凄い」の連打だ。なんとも語彙が乏しい。トホホ)


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