2020年11月刊行の作品。少し前の作品だが、まだ読んでなかったので、読むことにした。新作『財布は踊る』やその前の『三千円の使い方』にもつながる内容だ。今彼女の興味の焦点は「お金」を巡る問題なのだろう。老後の暮らしとお金の関係を絡ませて、ひとりの老人がいかにしてこれから先の時間を生きていくのかが描かれる。これは倍賞千恵子主演、早川千絵監督による『PLAN 75』の姉妹編のような小説だ。主人公は同じような年で、身寄りがない。仕事も同じ。パートの清掃業。彼女は生きるすべを失い、犯罪を犯して刑務所に入りたいと願っている。とんでもなく悲惨な話なのだが、これはそれを原田ひ香なので、シリアスではなく彼女らしくコミカルに描く。でも、根っこは2本とも同じだ。
一人暮らしの貧しい老人の居場所について。この重いテーマを笑いとともに描くが、ここに描かれることは自体は悲惨だ。桐子は夫に死なれてやっとひとりになれた親友(!)知子と3年前からふたりで生きてきた。でもたった3年で彼女が死んでしまう。ひとりぼっちになった桐子。そんな彼女の生きるすべ、それはちゃんとした犯罪を(人に迷惑をかけない犯罪で)犯して刑務所に入ること。この迷宮からの出口がそんなことなのだ。
でも、当然なかなかうまくはいかない。コニカルと紙一重の展開で、エスカレートしていく。万引きから始まり、偽札(カラーコピーだけど)、闇金(ささやかな手伝い)、詐欺(される知り合いの話)、誘拐(狂言誘拐未遂)、最後は殺人(引き受けない)と実に物騒な内容のお話のてんこもり。途中から少し、つまらなくなるけど、一応は楽しく読める。